STEP3 Starless 74
東大寺は野菜にドレッシングをからめ、大きな木のサラダボウルに盛りつける。
紫苑の指示がなくても、東大寺は紫苑の心を勝手に読んでいるのだろう。
痒いところに手が届くと言うか、助手としての東大寺は完璧に違いない。
しかしサラダ菜を盛りつける途中で、既に東大寺の口にいくらか入っているのもまた事実だ。
「強盗捕まえたとか、喧嘩を止めたとか、ストーカーを撃退したとか。みんなの味方ですよ、これじゃあ。仕事ならそりゃ、あの事件にも絡んでいた!じゃないけど、殺人ウィルスで、出合う揉め事揉め事片付けたぐらいのことはしますけど。やってることの根本が違うんですよね。別に、人助けの為にやってるんじゃないんだから」
愛美は、巴が鞄からとり出した女性週刊誌の表紙の煽り文句を読むと、空しい笑いを上げた。
そして、折ってあるページを指を挟んで開く。
「何で、頼まれもせんことわざわざすんねんって、それは俺ちゃう言うてるけど。この前なんか、セントガーディアンの人ですかって、声かけられてサインねだられたんやて。気配消してる時はともかく、長門はデカいから外見的には目立つねん。まあ、日本におらんで今は正解やわ」
東大寺が言うと、長門の言葉も長門の台詞に聞こえない。
巴は、トレードマークになっている愛美のポニーテールが見られないと、どうも違和感があると言うように、愛美の下ろした髪を見ている。
東大寺も珍しく、黒の襟付きシャツを着ている。
普段は、トレーナーかTシャツと決まっているのに、どこか東大寺ではないようだ。
そう言う巴も黒縁の眼鏡をやめて、縁なしの眼鏡に代えていた。
「その時の長門さんの顔を、見てみたかったです。サインねだられてどうしたんですか?」
いつも通り紫苑だけは、メンズモデルの雑誌から抜け出してきたような出立ちだ。
紫苑の場合は、何を着ても垢抜けた感じがするだろう。
愛美は雑誌の記事を読むのはやめずに、返事だけ返した。
「何かの間違いだろうって、まいてきたらしいですけど?」
ポニーテールの制服姿の女子高生。
ラフな格好をした、中肉中背の二十才前後の関西弁を喋る男。
二十代半ば程度の長身の男。
黒縁の似合わない眼鏡をかけた小柄な少年。
それだけの類似点を上げるなら、いくらでも似た人間は探し出せるだろう。
殊更、自分のことだと思う者もいまい。
ただセントガーディアンと言う囲みで語られるならば、その言葉を使った者達は、あくまで愛美達を意識していることになる。
なぜ関西弁、なぜポニーテールなのか。
盗聴機騒ぎのあったのが、一月の初旬のこと。




