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STEP3 Starless 72

 東大寺は、紫苑に玉葱の皮剥きを仰せつかって、シンクの前に立った。

 紫苑も俎板と包丁を出して、カボチャやナス入りのミートローフを作る為の、下ごしらえにかかる。


「長門の奴、ほんまに気ぃ利かんねんから。海外行っても、いつでも土産はうてけぇへん」


 玉葱を剥き終わった東大寺は、今度はボウルを出して、サラダ菜をちぎり始める。

 紫苑はてきぱきと動き回りながら、それでも人の話はちゃんと聞いているのだった。


 愛美には到底、真似できない芸当である。


 一つのことを考えるとすぐに、愛美は他のところが疎かになるのだ。

 

 愛美の料理に足りないのは、もしかしたら集中力かも知れない。


 あれとこれとこれと言うようにメニューを決めても、手順がうまくいかずに、結局全部が全部失敗作になってしまうのだ。


 東大寺などは食べ物に関する集中力は相当なものなのでたぶん今、彼の頭は次に何をして何をすれば早く食事にありつけるかという計算に、支配されているのだろう。


「ああ。偉いさんって、総理が中国訪問しているのですね。と言うことは、明日には帰って来ますね」


 愛美だけがキッチンカウンターに肘をついて、男二人が料理の下ごしらえをしているのを見ているだけだ。


「もう一羽はね、一番可愛い巴君。もうそろそろ着く頃じゃないかな?」


 そう言っているうちに、玄関の扉が開く音がした。

 

 紫苑は、昼食は十二時過ぎですからねと念を押しながら、ともに1㎝角に切ったナスは水に晒し、カボチャは耐熱ガラスに移してレンジにかけた。


 今度は東大寺は、しめじをちぎり始める。


 東大寺の心は、紫苑の手料理を食べる瞬間に既にトリップしてしまっているようだ。


 それで愛美の方から、紫苑には話すことにした。

「紫苑さん、折り入ってお願いがあるんですけど」


 そう切り出した愛美に紫苑は、穏やかな口調ではあるが、きっぱりと言った。


「駄目ですよ。綾瀬さんが動くなと言ったら、動かなくていいんですよ。綾瀬さんは、もっと大きな流れを見ているんですから」


 セントガーディアンを名乗る事件の解決屋は、テレビでもワイドショーにとり上げられたのだから、紫苑だって知っていて当然である。


「社長から何か言われたんですか?」

 巴はキッチンに入って来るなり、紫苑の言葉を聞き咎めてそう言った。


 手土産のケーキを愛美がせがむので、巴はケーキの箱を冷蔵庫に入れる代わりに、カウンターに乗せた。


 愛美は早速シールを剥がして、ケーキの品定めをする。


 私はオレンジムースで、巴君は苺のミルフィーユに、東大寺さんがチョコトルテで、紫苑さんが抹茶のシフォンねと、勝手に決めていく。

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