STEP3 Starless 71
そう考えた中野は、東大寺達に言わねばならないことがあったのを思い出した。
今ごろ思い出しても、遅いのだ。彼らはもう、行ってしまったのだから。
しかし彼らには、彼らにしか分からない知識があるのだから、きっとわざわざ中野が伝える必要もなかったのだろう。
長身の長門似の男が残した言葉。それは、ウミハルが言っていたものと全く同一だった。
――セントガーディアン、闇を狩る者……。
*
紫苑がリビングの戸を開けたのにも、迎えてくれる声は上がらない。
両腕の買物袋を、キッチンカウンターに置いてから、紫苑はリビングのソファに近付いた。
愛美はソファにうつ伏せで横に伸びていて、東大寺は一人がけのソファに両手を大きく広げてぐったりしている。
東大寺は、喉をのけぞらせて逆さまに紫苑を仰ぎ見た。
逆さまの呆れたような紫苑の顔が、東大寺の目に映る。
おうと、東大寺が気の抜けた挨拶をした。
「春休みなどで子供が家でゴロゴロしていると、母親にとっては邪魔で仕方ないと、今日のニュースで言っていましたよ」
愛美は身体を起こすと、ちょっとだけ微笑んだが、どうも疲れた表情だった。
機嫌の善し悪しが、相変わらずすぐに顔に出るのが愛美と東大寺だ。
紫苑は、まあ気にするまでもないと、キッチンに食事の用意をしに行こうとした。
その背中に愛美が、伸び上がって声をかける。
「お腹を空かせた可愛い雛が三羽もいるんですよ。お昼、たっぷりお願いしますね」
東大寺が溜め息をつきつつ、それでも食事のことを考えると少し元気が出てきたのか、気合の入った声を出した。
「今やったら、どんだけでも食えんでぇ。こうなったらやけ食いや」
「やけ食いしなくても、いつも大量に食べてるじゃないですか」
愛美の突っ込みは、やはり力がない。
「三羽って。いくら年下でも、長門さんを雛鳥だとは認めたくありませんね」
紫苑はカウンターに置いたスーパーの袋をとり上げると、キッチンに入っていく。
東大寺は、威勢よくソファから立ち上がると、何か今すぐ口に入れられる物はないか探すのに、紫苑の後を追っていった。
「長門は、二日前から、偉いさんのボディガードで中国行っとる」
紫苑は、買い物袋から挽き肉にパック入りのしめじ。
半切りのカボチャに袋詰めのナス、玉葱、サラダ菜、アンチョビの缶詰めと、次々出していく。
東大寺が今、つまみ食いできるものは残念ながらない。
メニューは、茸のリゾットにマリネ風サラダ、ミートローフと贅沢だ。余裕があれば、デザートもつくだろう。




