STEP3 Starless 61
「これって、もしかして」
血痕には、スニーカーの踵の部分に踏みつけられた跡があった。血痕の一部が、靴底の波型に凉れて消えている。
ということはつまり、これを踏んだ靴にも同じ血が僅かにしろついていることになる。
「写真も撮ったし、どうせこの血って、水で流しちゃうんでしょう?」
愛美は媚るように、刑事に笑顔で聞いた。
名前もまだ聞いていない刑事は、途惑いならも「ああ」と頷く。
血痕は、逃げてしまった容疑者のものではなく被害者のものであるし、その血痕についた靴の跡も、善意の第三者の残したものだ。
重要性は、全く認められない。
「愛美ちゃんのそのやり方やったら、いけるかも」
東大寺と愛美は、もちろん相談をした訳ではなかったが、東大寺には考えは筒抜けだったようだ。
今の場合は、手間が省けていい。
愛美は鞄を掻き回して、綾瀬から預かってたものを入れているので、肌身離さず持っているパスケースをとり出した。
定期入れになぜそんなものがと思うような、薄い正方形の折り畳んだ紙を、愛美は一枚とり出す。
そして粘つく血痕の上に、紙を載せて愛美は紙を何度も丁寧に撫でて、血痕を転写した。
「もっと早かったらよかったんだけど、こんなんでいけます?」
愛美は不安そうに、血糊のついた紙を東大寺に見せた。
「血やからな、泥に着いた足跡とかよりは、やり易いから大丈夫や」
愛美から受けとった紙を東大寺は四つ折りにすると、右手の手の平に乗せて、左手で蓋をした。
今度左手をどけると、紙から一筋の煙のようなものが立ち上ってくる。
東大寺の手の平の上に、ホログラフィーか何かのように、ぼんやりとした立体映像が現れた。
愛美を除いた三人の男達は、呆気にとられてその様子を見ている。
十五センチほどの人間の姿が、東大寺の手の平に浮かんでいるのだ。
ただお世辞にも鮮明とは言えず、昔のテレビの画面のように像が歪み、砂嵐が吹く。
愛美は、その立体映像に鼻をくっつけるようにして、何か手がかりがないかと舐めるように見た。
その人物は、体格から辛うじて男だと分かる程度で、ウミハルの言ったように髪型服装などは、東大寺に瓜二つだ。
それも、この不鮮明な映像で見る限りはである。
「あかんなぁ、ちょっとこれでは細かいとこが分からんか。やっぱり靴の跡ぐらいやったら、ここまでが限度やな」
東大寺がそう言う間にも、その立体映像のようなものは、煙のように薄れて消えてしまう。
紙はフィルムのコマ落としのように、手も触れていないのに粉々に砕けていった。




