STEP3 Starless 59
「いや。助けてくれて、そのまますぐにどこかに行っちゃったから」
ウミハルは目線だけで、路地の方を窺った。
その動作一つで、相手がその路地に入っていったことが分かる。
「その前に、何か言いませんでした?」
警官が高圧的に、何だね君はと、愛美を難詰した。
五十過ぎぐらいの刑事の方が、構わないんだと言うように、それを制す。
警官は訳が分からないらしく、複雑な表情をした。
警官と刑事は年の頃は似たようなものだろうが、その刑事の方が、明らかに上らしかった。
「言った。言った」
ウミハルは、ちょっと面白そうに笑いながらそう言った。
そして、一拍間を置いてウミハルは、その言葉を口にする。
「セントガーディアン、闇を狩る者」
愛美は、東大寺の腕を握ったままの指から、力が抜けていくのが分かった。
東大寺は拳を握り締めて、その腕の持って行き場もないまま、吐き捨てるように言う。
「畜生。ついに俺まで、出やがったか」
刑事の一人が、やっぱりと呟いた。
ショックから立ち直ったのは、愛美の方が当然早かったので、問いかけるように男を見た。
刑事は、あくまで東大寺の方を見ている。
「君、あの長門君と一緒にいたことがあるだろう? 彼には、私達刑事も何度も助けられているんだ」
自分に向かって発せられた言葉に、ようやく東大寺は顔を上げた。
立ち直りの早い東大寺のことである。
次の瞬間には、いつも通りのお気楽な調子に戻って、人懐っこい笑顔を見せた。
「流石は刑事さんやん。見る所はちゃんと見てるってか? 長門と組む時は裏方やから、見られることは意識してへんかったけど、これからは気ぃつけやなな。何見られるか分かったもんちゃう。俺は東大寺で、こっちは愛美ちゃん。二人とも、長門と同じSGAのメンバーや」
その言葉に反応したのは、もう一人の白髪の混じった三十後半ぐらいに見える男だ。
その男も、やっぱりという言葉を使った。
「やっぱり、近藤愛美さんか」
愛美は不信感も露わに、その二人の内の若い方の男を見た。
男は愛美の視線に慌てたようにペコリと頭を下げると、自己紹介をする。
「加納と言います。マッドドッグを追っていた田村の同僚で、萩原の元上司です」
刑事ではない。新聞記者らしい。
萩原という名前が出たので、愛美は納得していた。
愛美自身は、加納というこの新聞記者は知らないが、加納の方では愛美のことを聞かされて知っていたのだろう。
それにしては愛美の顔を見た時点で、何やらおかしな素振りを見せたが、顔までバレているとは驚きだ。




