STEP3 Starless 31
やはり、長門が初めてということになるのだろうか。
長門の唇は、綾瀬のそれとは違って薄かった。
綾瀬の時は、唇が触れただけだ。
柔らかな感触、つけている香水の官能的な甘い香りと、泥のように溶けてしまいそうな熱を綾瀬の時には感じた。
しかし長門の喰むようなキスの方が、肉感的な感じがしなかった。
体臭も体温も、人間味が感じられない。
だから綾瀬の時ほどは、胸が騒がなかったのだろうか。
愛美は、体育座りをして膝を抱いた。
長門もベッドに腰を下ろす。
「それなら、俺もある。貧血で倒れそうになった時、綾瀬の唇が触れただけで身体が元に戻った。あんまり男相手にはやりたくないとか言っていたが……。そうか、あの男に先を越されたのか」
愛美は、長門の言葉にきょとんとしたあと、つい笑い出してしまった。
やっぱり、長門は何か変だ。
どうして愛美が笑うのか、長門は分かっていない。
そこがまた、人とズレている。
綾瀬は一体どんな顔で、長門に口付けたのだろう。
想像すると、おかしくて怪しくて笑ってしまう。
長門は何も、意識なんかしていない。
東大寺の頬にキスした時も、長門はやっぱり何も考えていなかっただろう。
愛美が笑っていると、長門も表情が緩んでいる気がする。
ちょっと冗談めいて愛美は、
「嫉妬した?」と、聞いてみた。
長門は、
「多分」
と、答えた。
「多分ばっかりね」
愛美は、大袈裟に肩を竦めて見せる。
「好きかもしれない。殺したくないかもしれない。嫉妬したかも知れない」
長門は変に律義なところを見せて、愛美の揶揄の言葉にも真面目な返答を返した。
「今まで感じたことのない気持ちだから、それをどう言い表せばいいのか分からない。あの女に感じていた気持ちとは違うのは、確かだ。それを、何と言うのか、俺には分からない」
まるで、告白されているみたいだ。
告白だと素直に受け止められるほど、愛美は長門の性格を楽観視している訳ではなかった。
それでも、他の人とは違うと言われると嬉しい。
愛美なら、長門を変えられる?
長門の特別になれるのだろうか?
愛美は、ゆっくり言葉を選ぶように話した。
「私、あなたのことも嫌いじゃないと思う。根性悪いし、口も悪いし、性格も悪いし、悪人だし。でも、仲間だからかな。嫌いにはなれないの」
嫌いにはなれない。控え目な言い方だ。
「優し過ぎると苦労するぞ」
優しくしてくれたのは近藤先生だけだと、自殺した中学三年生の少年は、クラスメイトの一人に語っていたと言う。
それを聞いた時、愛美は自分を責めた。




