STEP3 Starless 30
愛美は、長門の手を更に強く握り締めて、目を閉じて枕に顔を押しつけた。
「一晩だけの恋人でいいから」
長門は、黙っている。
愛美が目を開けて見上げると、長門はやはり何を考えているのか分からない顔で愛美を見ていた。
長門は身体を起こすと、ベッドの上に覆いかぶさってきた。
愛美は腕を離す。少し身体が竦んだ。
長門は愛美の上に乗りかかりつつも、体重をかけないような配慮をみせた。
愛美の背中に、長門の腕が差し込まれる。
大丈夫。長門だ。
愛美は、長門の肩のあたりを両手で掴んで身体を浮かせて、抱き締められやすくした。
長門は愛美の背中に片腕を回しつつ、愛美の唇に自分のそれを重ねた。
愛美の頭が真っ白になる。
違う。そういうことじゃない。そんなことはされたくない。
自分の言った一晩だけの恋人という言葉が、長門の行為と結び付いて、我ながら気が遠くなりそうだった。
長門の身体の重みがかかってくる。
唇を甘く喰むようなキスに、更に気が遠くなりそうだ。
身体から力が抜ける、気持ちがいい。
しかし長門の腕に力が込められ、舌が唇から滑り込んできた途端、愛美は自分をとり戻そうと努力した。
長門の胸を腕で押し上げて、拒む。
唇が離れた隙を狙って、抵抗した。
「長門さん。やめて」
声が震えていた。
愛美は身体を起こして、胸のボタンを止めて、ズボンのジッパーを上げて手早く身繕いをする。
長門は無理に何かしようという気はないらしく、オタオタと服を整えている愛美を、少し身を引いた格好でただ見ていた。
「初めてだったのか?」
長門は、不思議そうにそう言った。
人を何だと思っているのだろう。
それとも馬鹿にしているのか。
愛美は自分の身体をギュッと抱き締めて、不貞腐れた子供のような顔をした。
「どうせ私は子供だもん。ここはアメリカじゃないし、私は簡単にやっちゃうようなその辺の女子高生じゃないの」
付き合ったり別れたり、お手軽な恋愛ばかりが目立つ今の世の中、愛美は変わらないものに憧れがあった。
恋の至極は忍ぶ恋とか、そんな言葉に心魅かれる。
古風なのか、ただ幼いだけなのか。
人の気持ちなんて当てにできないと分かっているけれど、どこかで信じたいと思っているのだ。
長門にキスされても、嫌ではなかった。
流されそうになったが、それは今であってはいけない。
長門の唇が触れたのを気持ちいいと、嫌ではないと思ったのが不思議でもあり、当然でもあるような気がした。
「キスなんて、綾瀬さんに、気持ち悪くなった時に気を送り込む為に唇合わされただけだし、あんなのキスじゃないって言えばどうせそれまでだし」




