表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/399

STEP3 Starless 26

 愛美が泣く度に見せる、途方に暮れたような顔にも似ているが、この場合は困っているのではなく照れているのかも知れない。


 表情が乏しいので、判別がつかないのだ。


 信じてもいいのだろうか?


 自分の気持ちが、一番分からないのかも知れない。

 他人がその気持ちをどう呼ぶかは分かり過ぎている。


 それでも、愛美は認めたくない。


 だから、長門の言葉にこれほどまで心が騒ぐのだ。

 揺れる思いなんて、馬鹿らしい。それこそ、欺瞞だ。


「この気持ちを、欺瞞だとは思いたくない」


 そう力強く言った長門は、慌てたように飲みかけたままのビールもそのままに、部屋を出ていった。


 長門も、自分の気持ちに途惑っているのかも知れない。

 自分の言葉に、自分で途惑っている。


 何も考えていない、無意識に発せられた長門の言葉を信じていいのだろうか。


 長門は、感情のないロボットじゃない。

 昔はそうだったかも知れないが、他人ひとと同じように泣いたり笑ったりだってできるかも知れない。


 過去は変えられない。


 未来なら、変える余地が残っている。

 しかし、変えることがはたして正しいのだろうか。

 知らない方がいい、気持ちもあるのではないか。


 *


 長門はソファに寝そべって、いつものように酒を舐めていた。

 愛美の帰りは、普段学校に行っている時よりも随分遅い。


 今日は七時を過ぎたのに、まだ仕事から帰ってきていなかった。


 いつだって人事で一生懸命になる愛美だから、今度もその依頼で一杯一杯になっているのだろう。

 また泣いているのかも知れないと思うと、長門はどうしていいのか分からなくなる。


 愛美に自分のことが好きなのかと言われて、かも知れないなどと答えて、あとあと長門は気まずい思いをした。


 自分でも自分がよく分からない。


 あまり物を考えずに話していると、自分の言葉に自分で首を傾げることも暫々だ。


 愛美は、馬鹿にされたと思ったらしく憤慨していたが、長門は愛美を怒らせるか泣かせるかのどちらかしかしていない。


 そんな長門に対しても愛美は、他の者に接するのと同じように接する。


 長門を前にすると、大抵の人間が萎縮して、爆発物か何かのように扱ったりするものだが、愛美は必要以上に恐れたりしない。


 はっきり長門のことを嫌いだと言うし、酒は駄目だとか、食事をしっかり摂れとか、口うるさく言われるのは、小気味いいほどだ。


 殺し屋の女には気の強い女も多かったが、愛美はそんな女達とも違う。

 強さと弱さが、愛美の中では何の矛盾もなく同居している。


 無防備な子供のようであり、時には老成した大人のような顔を見せることもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ