STEP3 Starless 26
愛美が泣く度に見せる、途方に暮れたような顔にも似ているが、この場合は困っているのではなく照れているのかも知れない。
表情が乏しいので、判別がつかないのだ。
信じてもいいのだろうか?
自分の気持ちが、一番分からないのかも知れない。
他人がその気持ちをどう呼ぶかは分かり過ぎている。
それでも、愛美は認めたくない。
だから、長門の言葉にこれほどまで心が騒ぐのだ。
揺れる思いなんて、馬鹿らしい。それこそ、欺瞞だ。
「この気持ちを、欺瞞だとは思いたくない」
そう力強く言った長門は、慌てたように飲みかけたままのビールもそのままに、部屋を出ていった。
長門も、自分の気持ちに途惑っているのかも知れない。
自分の言葉に、自分で途惑っている。
何も考えていない、無意識に発せられた長門の言葉を信じていいのだろうか。
長門は、感情のないロボットじゃない。
昔はそうだったかも知れないが、他人と同じように泣いたり笑ったりだってできるかも知れない。
過去は変えられない。
未来なら、変える余地が残っている。
しかし、変えることがはたして正しいのだろうか。
知らない方がいい、気持ちもあるのではないか。
*
長門はソファに寝そべって、いつものように酒を舐めていた。
愛美の帰りは、普段学校に行っている時よりも随分遅い。
今日は七時を過ぎたのに、まだ仕事から帰ってきていなかった。
いつだって人事で一生懸命になる愛美だから、今度もその依頼で一杯一杯になっているのだろう。
また泣いているのかも知れないと思うと、長門はどうしていいのか分からなくなる。
愛美に自分のことが好きなのかと言われて、かも知れないなどと答えて、あとあと長門は気まずい思いをした。
自分でも自分がよく分からない。
あまり物を考えずに話していると、自分の言葉に自分で首を傾げることも暫々だ。
愛美は、馬鹿にされたと思ったらしく憤慨していたが、長門は愛美を怒らせるか泣かせるかのどちらかしかしていない。
そんな長門に対しても愛美は、他の者に接するのと同じように接する。
長門を前にすると、大抵の人間が萎縮して、爆発物か何かのように扱ったりするものだが、愛美は必要以上に恐れたりしない。
はっきり長門のことを嫌いだと言うし、酒は駄目だとか、食事をしっかり摂れとか、口うるさく言われるのは、小気味いいほどだ。
殺し屋の女には気の強い女も多かったが、愛美はそんな女達とも違う。
強さと弱さが、愛美の中では何の矛盾もなく同居している。
無防備な子供のようであり、時には老成した大人のような顔を見せることもある。




