表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/399

STEP3 Starless 19

 その子が行くつもりの高校は、彼の学力なら進学は心配ないとは言われているが、それでも不安で仕方ないようだ。


 自分は全然不安なんかないというように振る舞っているが、本当は安心させてくる人間が欲しいために、保健室へとやってくる。


 そんな子達は、結構多い。


 愛美とのつまらないお喋りが、そんな彼らの心に少しでも潤いを与えるならば、いくらでも話し相手ぐらいは務められる。


 そんな少年達から、バレンタインに手作りチョコが欲しいと駄々をこねられて、こうして料理が下手な愛美にでも出来そうなチョコ作りに挑戦しているという訳だ。


 彼らに傾倒してしまうのは、やはり殺された弟のことがあるからだろう。


 つよしも、今年が受験だった。


 弟は何事につけてものんびりしていたが、自分の学力にあった高校にすんなり入るだろうと、姉の愛美としてもそう信じて疑わなかった。


 結局、弟は十四才、中学二年で、その生涯を閉じた。


 弟と同じ年の子達と接していると、ついつい剛の面影をその少年達に見てしまう。


 自分は教師で、しかも本来の仕事は、理事長が十四年前に犯した罪を、どう断罪するかにかかっているのに、そんな馴れ合いに心を砕いているのだ。


「バレンタインに決まってるでしょ。分かった。長門さん、チョコもらったことないんでしょう。義理チョコでよかったら、あげるわよ」


 うまくできたら、東大寺達にあげるのも悪くなかった。

 綾瀬だったら、高級なチョコにブランドもののネクタイとかなら喜びそうだが、愛美の作ったチョコなど見向きもしないに違いない。


 金のかかる男だ。


 それに比べて、東大寺や紫苑なら無条件に喜んでくれるだろうし、巴だって心の中ではきっとそうだろう。


 愛美の手作りの物を平気で食べるのは、長門ぐらいのものだろうが。


 用意していた串で愛美は苺を刺すと、溶けたチョコレートにからめた。


「ある。本命ならな」


〈きつく抱いて

 その腕で確かめて

 したたる嘘と 冷たい指先で

 今だけの言い訳と

 偽物の涙で

 夜の数を数えるような

 所詮はレプリカの人形オモチャたち〉


 泣かない、笑わない、歌わない。

 まともな食事すらしない、殆ど眠らない、仕事がなければ何もしない。


 長門は、殺人マシーンの名に相応しい。


 親の記憶すらないことも、長門らしいと言えば長門らしいが、恋人がいたことがどうしても納得できなかった。


 長門に人が愛せる筈がない。

 だが、長門を愛した人間がいたのだ。


 長門の身につけていた時計を、欲しがるほどの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ