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STEP3 Starless 18

 お菓子作りの本を広げて、愛美はチョコレートを湯煎で溶かしていた。

 銀色のバットには、へたをとった苺や輪切りにしたバナナ、リンゴのスライスが並べてある。


 思わず機嫌良く、鼻歌も飛び出してくるというものだ。


 状況は、お菓子など作って鼻歌を歌っているほど呑気ではなかったのだが、まだ完全にダウンするところまではいっていなかった。


 仕事の依頼先の進学校では、中三生が受験で切羽詰まった状態にいるというのに、彼らのカウンセリングも受け持っている愛美は、バレンタイン用の手作りチョコなど作っているのだ。


 しかし、一緒に落ち込んでいたって何にもならない。


 仕事の方は、目星がついている。

 ただ、時期がまずかった。


 もう少し状況を見て、どうするか決めなければならない。


「優しい嘘へと染みてゆく 心と身体は別々でも 構わない 愛情なんて言葉で飾ってみただけの Love is game」


 愛美は、ボウルのミルクチョコレートを、ヘラでかき混ぜながら歌う。


 酒でもとりにきたのか、長門がキッチンに顔を出した。


 愛美が夕食も終わった後に、ゴチャゴチャと広げているのに驚いたようだ。


 ボウルの縁についたチョコレートを、愛美は時おり指ですくって舐めていた。

 愛美は長門にも愛想良く微笑んで、チョコレートのついた人指し指を、見せびらかす。


「チョコレートフォンデュ。おいしいよ。舐める?」


 長門は、食べ物にもこだわらない。


 甘いものも辛いものも味の判別がついていないらしく、大抵、愛美が差し出したものは何でも食べてしまう。

 長門は昨日、仕事から帰ってきて、そのあとはいつも通りぼーっとして過ごしていた。


「いいのか?」


 長門は近付いてくるなり、愛美の手を無造作に掴んだ。


 そして長門は、チョコレートのついた愛美の人差指を口に入れる。


 腕を引くこともできずに、愛美は長門に指を吸われるままになっていた。


(意味が違う。意味が)


 しかし愛美は、何も言えなかった。


 自分でも、顔が赤くなっているのが分かる。


 何も意識していないらしい長門は顔を上げると、

「何かあるのか?」

 と、テーブルの上に広げたお菓子作りの道具を顎で示した。


 意識する愛美の方が、おかしいのだ。


(こんなこと、大したことじゃない)


 愛美は、ヘラについたチョコをボウルの縁で丁寧にこすり落とした。


 何かあるのかも何も、バレンタインの予行練習だ。


 あげるのは、東大寺や紫苑、綾瀬にではない。


 相手は、中学生の男の子だ。

 保健室に入り浸っているような子だが、性行、学力ともに問題はない。

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