STEP3 Starless 14
愛美は、オーディオセットにCDを入れて、再生を押す。
座っている長門の隣に、愛美は腰を降ろした。
長門から渡されたブックレットの、最初のページに目を落とす。
アルバム収録曲は、全十三曲。
うち一曲は、インストゥルメンタルなので、実質全十二曲だ。
シングル曲六曲に、ボーナストラックとしてインディーズ時代の曲が入っている。
アルバム用の曲は、五曲だった。
一曲目は、『Lunatic』。
作詞はザキで作曲はシヴァ、編曲はヨータ。
〈夜と昼
使い分ける二つの顔
太陽と月のように
相反する僕の狂気を
優しく抱いて
鏡に映し出された
叫び声は
茨の棘のように
僕の身体を苗床にして
夜の空へと伸びてゆく〉
相変わらずザキの声はいいし、ザキの書く詞の世界もそれぞれ独特のものがある。
これが、あのザキという人間から生まれてきたものだと思うと、愛美はどうにも解せないものがあるのだが、やはりいいものは良かった。
単調なメロディーラインはすぐに覚えられる。
愛美は、口に出して歌詞を口ずさんでみた。
――優しい虚しさに、切なく揺られて、月の光の中で眠る子供のように、無邪気な狂気を抱いて。
長門は音楽も、聴いているのか聴いていないのか分からない様子で、いつものようにボトルの酒を飲んでいる。
曲は二曲目の『Heaven's gray』が始まった。
一曲目二曲目と、ヨータが編曲の曲が二曲続いているが、全くタイプが違う。
歌詞もメロディーも、色々な表情が見えて面白い。
三曲目には、デビュー曲である『Frozen Flare』のアルバムバージョンが入っていて、フルオーケストラのそれは、更に気持ちのいい曲に仕上がっていた。
四曲目は、問題の『皆殺しのJungle』だったが、事件の後にレコーディングしたものらしく、シングルで聞いた時ほど、刹那的な雰囲気はない。
ザキが歌を歌うことを楽しんでいるのが、愛美には感じられた。
きっとザキの性格は相変わらずで、マネージャーの里見のことも呼び捨てで、顎で使っていることだろう。
ザキとはほんの数日過ごしただけに過ぎないし、過去も何一つ知らないけれど、なぜか何でも知っているような気になってしまう。
それに引き換え、SGAのメンバーとはかれこれ一年以上に渡って付き合いがあるし、過去だってそれなりに知っている。
それでもなぜか、知っているとは言いきれない。
桐生亨であった頃の綾瀬、病弱な妹を大事にしていた不良少年だった東大寺、インターネットのサイトで大学生だと偽っていた凪や行人がいた頃の巴。




