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STEP2 皆殺しのJungle 70

 地図上は、ただの会社の保養施設になっているその建物から数分車を走らせて、長門は車を道路脇に寄せて止める。


「車は捨てる。あとは、タクシーでも拾おう」


 愛美は長門にそう言われて、素直に車を降りた。

 瞬間、あまりの寒さに身体をちぢこめる。


 会場内は完全に空調が整っていたから、真冬であることを忘れてしまうほどだったが、この寒空に二の腕から肩から足まで露出していては、凍えきってしまう。


 長門がスーツから腕を抜きながら、車を回り込んできた。


「着ておけ。風邪を引く」

 脱いだスーツを、当然のように長門は、愛美の肩にかけた。


 フッと、長門に抱きすくめられた時の感触が甦る。


 愛美は、そのダボタボの上着に袖を通した。身長もあるし、意外と肩幅もある。

 腕なんか愛美が指を伸ばしても、袖から出なかった。


 長門の温もりがそのまま残っていたから、まるで抱き締められているみたいだ。


 愛美は上着の前を、ギュッと掻き締めた。


 長門は、既に背を向けて歩いていく。


 いつだってそうなのだ。この男は。いつだって。



 それから、タクシーに乗ってマンションに着くまで、愛美は一言も長門と口を聞かなかった。

 元々長門は無口で、話しかけない限り、自分から口を開こうとはしない男だ。


 長門はその沈黙も何とも思わなかったに違いないが、愛美にはどうにもやりきれなかった。部屋に着いて長門に上着を返すと、愛美は心底ホッとする。


 愛美は、綾瀬だったら意地の悪いことを言うに違いないと思いながら、自分だけが感じている間の悪さをなくす為に、やけに饒舌になっていた。


「慣れないヒールに格好に、メイク落とさなきゃ寝ることもできやしない。こんな大変なことないわよ。本当、終わってよかった。お互いご苦労様でした」


 愛美はそう言いながら、長門の前に手の甲を上にして両手を突き出した。

 東大寺に、教えられているのだろう。


 長門も、すぐに手の平を上にして両手を出した。


 パチンと愛美と長門は両手を打ち合わせる。


 普段なら絶対できないような経験をした為に、興奮が冷めていないのか、家について安心した途端、何だかハイになってしまったようでもあった。


「ああ。あと、今年もよろしくね。除夜の鐘、聞き逃しちゃったんだ。それじゃ、煩悩の一つも去らない訳よね」


 去年――一昨年かは、テレビで年末特番を見ながら、紫苑の作った年越し蕎麦を、東大寺と紫苑と愛美の三人で食べたのだ。

 長門は多分、仕事だったのだろう。いた覚えはない。

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