表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/399

STEP2 皆殺しのJungle 69

 何か忘れていたことでもあったのかと、長門は緊張しながら、どうした?と聞く。


 愛美は身振り手振りも大袈裟に、

「毛皮。毛皮。置いてけない。どうしよう」

 と、先ほどまでとはうってかわった情けない顔で言った。


 クロークで預けさせられた、ミンクの毛皮のコートのことを言っているらしい。

 突然とり乱した愛美は頭を抱えて、どうしようと泣き声を出している。


 長門が、綾瀬と巴から渡された仕掛けの数々を施していく間も、クラブリスキーの元締め達に啖呵を切った時も、あれほど落ち着いていたのに――落ち着いてはいなかった、怒り狂ってはいたから――それがコート一着でこの動転ぶりは何だとも思う。


 しかし、それが愛美らしいと言えば、とても愛美らしい。

「どうせ、綾瀬の懐から出てるんだ」


 長門は、どう言えばいいものか分からなかったので、とりあえずそう言ってみた。

 用意された時には、フェイクじゃない毛皮など薄気味悪いなどと言って愛美は嫌がっていたから、置いて行けてもいいだろうに。


 愛美は不貞腐れた表情で、毒突く。

「一生かけて賠償しろって言うわよ、あの人のことだから」


(そっちの心配か?)


 その時、あの二人組だと叫ぶ男の声が聞こえた。


 エレベーターの扉を、閉めておくべきだった。愛美が足さえ止めなければ、十分振り切れたはずなのだが。

 まだ登り切っていないが、こちらを見ている男の顔が覗いている。


 長門の顔に、面倒臭そうな表情が浮かんだ。

「車のある所まで走れ」


 長門は指図する前に、もう走り出している。

 愛美は、走ろうとして危うく態勢を崩しかけた。


(全く、忌々しいったらない)

 この靴の所為で、愛美は何度スッ転びそうになったか分からない。内心ヒヤヒヤしどうしだったのだ。


「ヒールじゃ走れない」

 こうなったら裸足で。


 愛美は、文句を言っている場合ではないと、ヒールに手をかけようとした。


 長門は、立ち止まって愛美の返事を黙って聞いていたが、戻ってくるなり、

「うわっ、ちょっと長門さん」

 愛美を荷物か何かのように肩に担ぎ上げた。


 しかも、そのまま走り出す。


「はうっ」

 舌を噛むので、黙っているしかない。


 長門は、駐車スペースに辿りつくと、一番手近にあったベンツに狙いを定めた。

 愛美を下に降ろすと、自分はドアの前にしゃがんで数秒でロックを解除してしまった。


 乗り込むと、今度は更にエンジンまでかけてしまう。


 愛美は、二人の追っ手の姿を確認してから車に乗り込んだが、長門はそれを待つのももどかしげに車を発進させる。


 地上の開口部のシャッターが降りかけていたが、車は余裕でシャッターの下を潜り抜けた。

 地上部分のコンピューターを制御していた者達に、ようやく伝達されたのだろうが、全てはもう手遅れだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ