STEP2 皆殺しのJungle 67
老女は微笑むだけで、男を咎め立てたりはしなかった。
「安全装置が、一時的に全滅したわ。外部からは、ここのコンピューターにアクセスできないつくりになっている筈なのに、それをやった者がいるらしいわ。実際の侵入者は、あの二人プラス、安全装置を駄目にしてくれたもう一人ってことになるわね。機械に頼るのは何だとずっと申し上げてきましたが、この場合は人間も役には立ちませんね。皆殺しにだってできる。向こうは余裕まで、見せつけてくれましたわ。ただ、それをしないだけだってね」
老女は細い枯枝のようになった、それでも昔は白魚のようなと評された手を口元に持っていき、おかしそうに笑う。
五人の男女は顔を見合わせて、お義理のように笑ったが、芯から楽しんでいるようではなかった。
「皆殺しねぇ。まあ、ボディガードや、使用人の無能を見たとは言えますな」
茶色のスーツの男の視線が一瞬だけ、壁際に並んでいるボディガード達に向けられた。
二十代後半から四十代半ばのボディガード達は、みな一様に硬い顔をしている。
格が違うのだ。元は警察や自衛隊で鳴らした彼らなど、長門の敵ではなかった。
日本という温ま湯に慣れ親しんでいては、技術も身体も磨き抜くことはできない。
上には上がいることを、彼らは痛感していることであろう。
老女は、他の者など目に入らないといった様子で、
「久しぶりにワクワクさせていただきましたわ」
と、若やいだ声を上げる。
「ハッピーニューイヤー。年が明けたのですね」
着物の婦人が、ポツリと呟くように言うのに、羽織袴の老人も格式ばった様子で、
「外国でもあるまいに、花火とは」
と、呆れたような顔をした。
しかも屋内だと、彼は口の中で呟く。
老女は、その自分とそう年齢が違わない男にも、親しみを込めた笑みを送っただけだ。
そして心から楽しそうに、細い目を皴と同化させて、
「ファンタスティックですこと。皆さんもこの趣向を楽しみなさいな」
と、言った。
緑や青い光が、スモークを染めている。
ドォンと言うのは、花火の音だ。
若い女が、あなた達に罪を、私達からの愛をと叫んでから、まだ五分と経っていない。
会場内のスモークは徐々に減りつつあり、それにつれて花火の数も減ってきていた。
パニックに陥った人々と、それを意に介した様子もない老女と、老女を囲む六人の男女。
室内には煙が立ち込め、閃光と爆発の音がしている。一種、異常な光景だ。




