STEP2 皆殺しのJungle 63
女は自信に満ちた微笑みを浮かべて、言う。
「初めから、自滅することは分かっていたんですのよ。もっと頻繁に事件を起こしてくれれば、一層与える影響も大きかった筈なのに、惜しいことですわ」
茶色のスーツの男は、その言葉に啀み合うのをやめて、話に口を挟んだ。
「惜しいと言えば、始末屋ですよ。なかなか役には立っていたんだがな」
「あんな汚らしい下郎の代わりに、今度はもっとましなのを見つけなさいな」
女が、あっさりと切り捨てる。
壮年の男が、視線は違う所に向けながら、
「リスキー大賞は、私のものでしょう」
と、気のない様子で言った。
「BJに頼むとは、うまく考えたものですよ」
黒スーツの男も、視線を壮年の男と同じ方に向けて言った。
先ほど話題にされていた女が、すぐ側まできている。
女は、そこで大人しくしていろとでも言うように、顎で犬には指示を出した。ダークスーツを見事に着こなした男は、オールバックの髪型の、なかなか強面しそうなタイプだ。
男は女の命令に素直に足を止めて、女の背後を守るようにする。
忠犬を従えた美しい女は、赤い唇で艶然と微笑むと、
「皆様方のご活躍を、側で拝見してもよろしいですか?」
と、澄んだ甘い声で言った。
あくまで態度は控え目であり、それでいて内側から滲み出す、威厳のようなものは隠せるものではない。
その場にいた誰もが、もちろんだと言うように、その自分達よりも遥かに年下の女を輪の中に迎え入れた。
「今度は、どんなリスクを与えましょうか?」
茶色のスーツの男が、新しく入ってきた女を意識しつつそう言う。
「放火犯でも仕立て上げて、どこかの地域を焼き払うとか。下町辺りなどどうです?」
着物姿の女が、若い女のスベスベの白い腕を羨望の眼差しで見ながら言った。
羽織袴の男がちょっと意地悪く、
「そんな所に住んでいるのは、爺とか婆ばっかりで、そんな奴らが大勢死ねば、いいゴミ掃除になったと感謝されるでしょうよ」
と、言う。
「トンネルでも崩壊させるとか、化け者でも使って、何か面白い事件でもできればいいんですがね」
黒のスーツの男も呟いた。
それまで静かに話を聞いていた若い女が、下手に出過ぎることなく、
「新参者に、発言権はありますか?」
うまく人々の会話の間隙に潜り込んでくる。
「もちろんですよ。お嬢さん」
そう言ったのは、日焼けした壮年の男だ。




