STEP1 Frozen Flare 16
愛美はと言えば、ザキの視線にまでは気付かなかったようだ。
ただ自分にだけ向けられた言葉と受けとめて、憤慨したように微かに眉を顰める。それには、ザキは気付いていなかった。
ザキは自分の態度が悪いのは棚に上げて、他人のちょっとした言葉尻や表情を捉えてあげつらうところがある。
気付いていなくてよかったと思いつつ、秘書じゃないんですからねと怒っていた少女を思いだし、私はまずいかもしれないと思った。
駄目だったらしい。
私の杞憂は、半分は杞憂で済み半分は、杞憂では済まなくなった。
とにかく、大抵の人間をザキは嫌っている。女性に限ったことではないのだ。
そして大概は、不機嫌な顔をしている。先ほど長門に向けたような笑顔を見せることは、まずない。
プチッと配線が切れた音を私は聞いたような気がしたのだが、意に反して少女は、
「仕事ですから」
と言って、笑顔を崩さなかった。
営業用スマイルだろうか。とりあえず何とかなりそうである。
待ち兼ねていたザキの登場で、ようやく我々も仕事が始められそうだ。
峰が、ザキに衣装に着替えるように言っている。私は、カメラマンや撮影スタッフに撮影の開始を告げるついでに、遅れた謝罪をしにいった。
今日の撮影は、音楽雑誌に特集記事として載せる為のものだ。
ザキだけ個別に、何ショットか撮ることになっている。
インタビューも、ザキ一人に対するものだけだ。
他のF・Flareのメンバーに、魅力がないということは決してない。
ただ、ザキには花がある。
世間の目は、ボーカルであるザキ一人に向けられがちであった。
そんなふうにアイドルアイドルした扱いを受けている内は、F・Flareもミュージシャンとは言い難い。
彼らの音楽性がフューチャーされるようになれば、もっとメンバー一人一人に焦点が当てられるようになるだろう。
今はまだとにかく彼らの存在を、聴取者に意識づけることだ。
だからこそザキを全面に押し出す形で、プロモーションは進められている。戦略としては間違っていなかった。
これから確固たる地位を築いていけるかどうかは、本人達次第だ。
しかし今のやり方では、駄目になる危険性はある。
いや、もう駄目になりつつある。
F・Flareは、初めから仲良しこよしでやっていたバンドではない。元々仲がよくても、誰か一人がクローズアップされると、メンバー内がギクシャクとしてくるものだ。
ザキがもう少しうまくやってくれればいいのだが、人間関係を良好にしようとは、さらさら思っていないようだった。