STEP2 皆殺しのJungle 60
「許せないから、闘う。自分は、曲げられないわ。自分が納得したら、それがどんなに間違ったことでも許してしまう代わりに、決して許せないものもあるの」
「私は反対です」
啖呵を切った愛美に対して、あくまで紫苑は冷静に言う。
「愛美さんが、わざわざ身を削ることはありません」
綾瀬も、紫苑の言葉にその通りだというように頷いた。
「私も、お前を危険な目に合わせたくはない」
綾瀬の伸ばした指が愛おしげに、愛美の髪を撫でた。
「はいはい。で、本当はどうなんですか?」
愛美は、綾瀬の魂胆に乗せられるものかと、先手を打って不機嫌に言う。
綾瀬は喉の奥で軽く笑って、伸ばした腕をあっさり引っ込めた。
そして。
「お前じゃ、どうやっても大人の女には見えないだろう。孫娘という設定なんだ。三十前のな」
と、種明かしをした。
愛美が、さてどうしたものかというように黙り込むと綾瀬は、たった今思いついたと言わんばかりに、紫苑に目を向ける。
「おい。お前が、女装で行くか?」
紫苑は、ヒクリと頬を引きつらせる。
「もう二度とごめんです。お断りさせて戴きます」
それでも綾瀬は、愛美に行かせるつもりだったのだろう。
この際、十才以上の年齢など無視、気合でカヴァーだ。
「私が行きます。私が行くわ」
そして、リスキーゲームは幕を開けた。
*
厚い絨毯に靴音は吸い込まれる為に、廊下は物音一つしなかった。
初老のスーツ姿の男は確固たる足どりで、廊下にかけられた数々の絵画や、壷には一度も視線を投げなかった。
廊下の突き当たりには両開きの扉があり、それぞれの扉の片側に男が一人ずつ立っている。
初老の男は、黒服の男達にも目もくれなかった。
扉が開かれるのを、男は待つことすらしない。
まるで黒子そのものに、二人の男は扉を開いてその初老の男と、影のように付き従った三十ほどの男を通した。
会場内に足を踏み入れた途端、人々が言葉を交わすさざめきに、男は包み込まれる。
地下だとは思えぬほど、開放的な広々とした空間だ。
立食パーティー形式で、いたるところで着飾った男女が飲み食いしている。
ざっと四、五十人の人間が、会場にはいた。
スーツ姿の初老の男は、他の者には目もくれず、真っ直奥へと足を向ける。
もう一つの別室に通じる部屋の近くには、近付くことを避けるかのように数人の者がいるだけだ。
男は、その輪に怯じることなく入っていった。
背後についていた男が、壁際へと下がる。初老の男は、それにも注意を向けなかった。




