STEP2 皆殺しのJungle 59
「話を聞いたら、東大寺さんも巴君も、西川さんの代わりになれるなら自分がするって言うに決まっているわ。私だってそうよ」
相手が誰だか分かっていて、見て見ぬふりをすることはできない。
どこかの誰かが事件をお膳立てしなくとも、馬鹿な人間どもは自分から破滅に向かっていくのだ。
吸血事件にしても、闇使いの件にしても、人の手によって加工されて初めて事件へと繋がった。
己が生きる為に殺した小動物の血を啜り、または闇を生かす為に死体を与えていただけならば、あのような事件には成り得なかった。
彼らを裏で操り事件を起こさせたことは、全く平凡な人生を送る筈だった人間達をも、無差別に巻き込むことに他ならない。
そして裏にいる者達の理論で言えば、それも世の中を動かす為に仕方のないことだと、諦めろと言うのだ。
虫ケラに意思などないと言わんばかりに。
「徹底的は駄目だ。彼らが全滅すれば、それこそ世の中が立ち行かなくなるのが難しいところなんだ。せいぜい、心胆を寒からしめてやる程度だ」
綾瀬は、一つ吐息を吐いて立ち上がった。
「どうするつもりだったんですか?」
愛美は綾瀬の移動にともなって、視線を動かす。
デスクを回って綾瀬は、愛美の前に立った。
「クラブのパーティーに潜入して、騒ぎを起こす。それだけだ」
綾瀬のあっさりした言葉に、愛美も気が抜けた。
「それだけって」
思わず、非難がましい声になる。
それだけ煽っておいてそれはないと思ったが、綾瀬が一筋縄でいかない男であることは、分かりきったことだ。
それだけな筈がない。
「東大寺が追っていた事件の黒幕もな、誰とは言わないが、リスキーの会員なんだ。東大寺に洗脳させて、そいつの孫として会場には潜り込めるよう手配させた。巴にも随分骨を折ってもらった。メンバーの代行者がクラブに入るのは容易なことじゃない。身許調査などのチェック体制は、何重にもなっている。下地はできているが、もし潜入に失敗すれば、当然どうなるか分かるだろう? リスクは多いが、メリットは少ない。それでも、行く奴がいるか?」
失敗すれば、即、死に繋がると言う訳か。
だからこそ、それだけの力量があると綾瀬が踏んだ人間に、その役目を負わせようとしたのか。
しかし、愛美達に綾瀬が話すということはつまり、この件を見送りにする気はないということだ。
行く奴がいるかという問いかけは、行くに決まっているだろうという念押しだ。
愛美は、受けて立つ。
「それが、SGAのメンバーでしょ。人の為じゃない、自分の為にする」




