STEP1 Frozen Flare 15
事実、長門は途惑っていたが。
皆、冗談だととった。それが普通だろう。
ただ長門と、その隣にいた愛美だけが笑わなかった。
愛美が横を向いて微かな溜め息を吐いた様子を見ると、私にはあながち冗談とも思えない。
私は思わず、一歩男の側から離れた。
ザキは、子供のように無邪気に声を上げて笑っていたかと思うと、滅多と見せないような自然な笑みを見せた。
そして。
「あんた面白いね。いいよ。気に入った」
よかったと思うのは、まだ早い。
私の想像通りザキはそこまで言って一旦言葉を切ると、またもや不機嫌そうな顔で、今度は愛美をジロリと睨んだ。
「あんた。何?」
ここが正念場だ。私は祈るような気持ちで、愛美を見た。
「スタイリスト見習いです」
少女は、満面の笑みで元気よくそう言うと、ペコリと頭を下げて自己紹介をした。
普通ならば、これで少女の好感度は高くなるだろう。若くて、それなりに可愛いい女の子ならば、自然と待遇は甘くなるものだ。
だが、相手が悪かった。
彼は、特に自分と年齢の近い女に対しては、露骨に反抗的な態度をとる。
十七才の青少年だ。
女性に興味がないということはない筈なのだが、女は嫌だと言って憚らなかった。ゲイ説も出る始末だが、実際はそういう傾向はザキにはない。
女が嫌だという気持ちも、分からないこともなかった。
ザキは、中高生の少女に絶大な支持を受けている。
可愛い顔と華奢な外形に、裏腹なハードな性格と低音で甘めの声と、ザキはアイドルファンの心理を擽る全てを持ち合わせていた。
本人にしてみれば、自分の外見はコンプレックス以外の何物でもなく、それに魅かれて集まってくる女もまた、嫌で嫌でしょうがないようだ。
それが高じて、女性全般に非常に屈託を持ってしまっている。
私がそんなふうに分析しているのを知ればザキは、俺は女が嫌いなだけだと、それこそキレまくるだろう。
案外この愛美も、ザキに参っているのかもしれない。
ザキは、ニコニコと微笑んでいる少女を、上から下までジロジロと眺めていた。
「スタイリストってさ。みんな自分の格好には構わないんだよな。何でかな。それで人のことができるのかいまいち不安」
ザキはそう言いながら、チラリと峰の方を蔑むように見た。
小肥りで、お世辞にも美人と言えず、服装もカジュアルな装いが多い彼女のことも、暗に馬鹿にしているのだろう。
ザキの視線に峰は、恐縮したようにそっと目を伏せた。自分の所為で、愛美にまで嫌な思いをさせてしまったと、思っているのだろう。
峰というのは、そういう女性だ。




