STEP2 皆殺しのJungle 46
何があったのかなんてことは、あまりにも分かりすぎたことだ。
パトカーと救急車のサイレンが、遠くに聞こえた。
車を離れてはいけないと、長門は言った。
愛美は少し躊躇したあと、駅に向かって駆け出す。
長門に何かあったのだろうか。
見つけることはできても、処理している最中に、タイムリミットがきてしまったのだろうか。
被害を最小限に喰い止める為に、長門ならあらゆる手を尽くしたに違いない。
もし、爆発に巻き込まれたとしたら……。
愛美はいても立ってもいられなかった。
駅周辺は、事故直後の混乱の只中にあった。野次馬がもう集まってきている。
しかし、駅の改札口には、まだ十分な余裕があった。
あと十分もすると救急車や、運び出される怪我人でもっと惨憺たる状態になるが、その頃には愛美はその場を後にすることになる。
愛美は長門の姿を探してウロウロとしたが、殆ど時間をかけずに目当ての者を見つけることができた。
みんな騒ぎの方に気をとられていて、歩道の柵に座り込んでいる男には注意を向けなかった。
長門は、失敗したと言っては悔やんでいたあの夜と同じような格好で、辺りの騒ぎなど気にした様子もなく、ただ座っていた。
どう声を掛けていいものか分からないまま、足だけは長門へと向かっていく。
こうして落ち込んでいるのを見ると寄る辺ない子供のようで、いやそれは言い過ぎだろう、こんなデカイ可愛げのない子供はいない。
それでも、手を差しのべて慰めてやりたくなるから不思議だ。
「長門さん。見つけられなかったんですね」
顔を上げると長門は、
「なぜ車で待っていない」
と、言った。
心配して損した。
長門はやはり、いつも通り何を考えているのか分からない。
愛美は、長門の言い方にカチンときて言った。
「もう終わったと思ったから。一々怒んないでよ」
長門は立ち上がると、足元に置いてあった工具入れを、愛美の手に押しつけた。
そのまま駅を離れようとする。
愛美は、私は荷物持ちじゃないと言いたいのを堪えて、長門の後をついて歩き出した。
「目の届く方にいた方が、まだ安全か」
長門は、独り言ちるように呟いた。
どういう意味だろう。
愛美は、重い工具入れを両手に抱えて、長門の横に並ぼうとした。
「俺の後ろから出るな」
ちょうどその時のことだ。
前へ出ようとした愛美を長門は厳しい声で制して、自分が立ち塞がるようにする。
思い返してみると、愛美は長門の背中ばかり見ているような気がした。
コンパスの差プラス、足の早さに追い着けず、いつでも愛美は長門の数歩後ろを歩いている。




