STEP2 皆殺しのJungle 35
「殺せ」
呻くように老人はそう言い、長門は、
「もちろん殺す」
と言って、老人が口を閉じる前に、再び腕を噛ませた。
長門は、腕を押し上げて老人に真っ直顔を上げさせる。
ナイフを握った長門の手はまず右に、そして左に動かされる。一方は地面に転がり、もう一方は着衣に引っ掛かっていた。
老人は耐えるように、きつく腕を噛み締めている。
ピラピラした奇妙なそのフォルムのものは、老人の頭についている時は、耳だったものだ。
耳を削ぎ落とされて老人は、やはり声も出せず動くこともできずに、身体を震わせていた。
愛美の足も、ガクガクと震え始める。
「質問は同じだ」
長門はそう言って、男の口が動くようにしてやる。
いつも通り長門は無表情で、声にも抑揚がない。いかにも、当たり前のことをやっている感じだ。
「化け物め」
長門は再び、刃物を振るった。
今度は口を押さえていなかったが、それは悲鳴にもならなかった。
老人の、左手頚から先が落ちた。
楕円の切口から血が吹き出すのを、長門は再び尻ポケットから出した巻いた針金で、倒れた老人の肘から上の部分にきつく巻き付けた。
吹き出す血の量が、滲む程度になる。
長門は、誰に聞かす訳でもないような調子で、三十分だと呟いた。
老人の命の保つ時間を表していることは、言われなくとも分かる。
愛美は、もう立っていられなかった。押さえた口元から洩れる息は、老人のものと同じぐらい早い。
「答えは?」
(怖い。もう嫌だ)
長門が全く知らない人間に見えてくる。
いや、そうじゃない。長門のことなど、初めから何も知らないのだ。
彼は、殺し屋なのだ――プロの。
「知らん」
老人は苦しげに、やっとそれだけ言った。
長門は落ち着いた足どりで、老人の前へ回り込んだ。
次は何をするつもりだろう。
「次は右手。本当は、手の前には性器を切る。俺一人なら構わないが、女の前だから省いた。その次は、腹を切って内臓を少しずつ切りとっていく。気絶はさせない」
愛美は恐怖で足が竦んで動けなかった。
長門の背中。こんなにも近くにあるのに掴むことができない。
老人が上ずった声で、獣めと呟いた。
根の生えたように動かない足を無理に引きずって、愛美は半ば長門の背にしがみつくようにする。
「もういい。もうそんなことしなくていい」
愛美は長門の腰に腕を回して、離すものかと力を入れた。
「もう少しで吐く。お前の手を汚すまでもない」
長門は愛美の肩に手を置いて、言い聞かせるような調子で言った。
愛美は、駄々っ子のように首を振って、嫌々をする。




