STEP2 皆殺しのJungle 34
「お前に話すことなどない。我が愛し子達を化け物呼ばわりし、我が手から奪い去ったのだ。殺したければ殺せ」
動揺、脱力、怒り、そして憎しみへと変化していく老人の心が、手にとるように分かる。
老人にとって、愛美こそが悪なのだ。
「もらった金などどうでもいいし、あれらなしで生きている意味もないからな。お前が困るというなら、口を噤んでいてやろう。それが儂のお前に対する復讐じゃ」
愛美に掴みかかるような様子を見せた為、長門が地面へと捩じ伏せた。
俺の出番だろう?と、長門は愛美の了解を得るような聞き方をする。
愛美は曖昧な表情のままだったが、長門は許可を得たとばかりに、老人を更に地面へと押しつけた。
「どこまで黙っていられるか、試してみればいい。人は、脆い。お前にとっての敵が俺だ。あまり苦しまないうちに、口を割った方が身の為だ」
長門はそう言ったが、台詞がまるで棒読みだ。
自分でそう言いながら、考え込むように口を閉ざしてしまう。
役者が、次の台詞を忘れてしまったかのようだった。
「拷問などには屈するものか」
地面に押さえつけられたまま、老人は憎々しげに吐き捨てる。
長門はその言葉に、思い出したようにボソボソと独白めいた台詞を吐いた。
「言葉には力がある……か。拷問をする時には、言葉でもっと相手を苛めと言われたが、俺はどうもお喋りは苦手だ」
長門は、そう言っていかにも面倒臭いといった顔をする。
「拷問を受けるのは初めてか。拷問を受けて、生きている訳がない」
長門は再び老人に向かってそう言うと、決まった手順を踏むように、老人の身体を引き起こして膝立ちにさせた。
もう片方の手で顎を下ろさせると、本人の左腕を曲げさせて、口にその腕を噛ませる。
腕をしっかり噛ませておいて、長門は素早く尻ポケットから小さなナイフを出した。
長門は、片手と片膝を使っただけで老人を身動きできないようにしている。
ナイフが閃いたのは、一瞬だ。
老人が、こもった呻き声を洩らした。
ポロポロと、何か寸断されたものが地面に散らばった。
それが何か分かった途端愛美は、うっと口元を押さえる。
老人の指は五本とも、第二関節からなくなっていた。
腕を噛まされていて悲鳴すら上げられずに、老人は身悶えて呻いている。
長門がしっかり押さえているので、身動ぎすることすらも、本当は叶わなかった。長門は、老人の煩悶が収まるまで暫く待っていた。
「頼んだ奴とその目的は?」
長門はそう聞いて、老人の口から腕を外した。
抜けた歯の跡が目立つ口から、涎が糸を引いている。




