STEP2 皆殺しのJungle 33
視えなくても何らかの影響は受けるが、闇自体が直接人に害を為すことはできない。
人が求めれば、闇は形を成し、血となり肉となる。
愛美が求めたからこそ右近と左近は、肉体を持った存在となったのだ。
求めたからこそ、宮里貫久という人間が生まれたように。
「あなたが作り出した。化け物だわ」
闇を作ったのは人の心だ。
本来の闇とはもっと禍々しく、人の力など及ばぬものである。
陰陽師などの呪術者は、その力を得ているのだ。
だからこそ力は強大であり、制御も難しい。
呪術とは、闇を騙し騙し使うやり方ではないか。両刃の剣として、扱い一つ間違えば、闇に仕返しをされる。
「化け物と言うなと言うに。儂の大切な愛し子じゃ」
老人は怒りを滲ませて、愛美を睨んだ。
脱力した後、次にくるのは怒りだ。
「なぜ、人を殺させるの?」
老人は、愛美の後ろにほんの一瞬視線を投げただけで、また愛美へと視線を戻した。
長門が、ゆっくりと愛美の背後に迫ってきている。
「人は餌じゃ。元々実体など持たぬ闇だからか、血肉を食うことを殊更好む。愛し子が喜ぶのだ。人などこの世界中に、何十億と溢れているではないか。それに比べて儂の愛し子は、たった二人じゃ」
その何十億の人間にとっても、大切な人間というのはかけがえのないものだ。
人は餌だと、マッドドッグであった長谷部も言った。
しかし、呪われた自分の身体を、運命を厭っていた。
本人が悪かった訳ではない。
呪われた村に生まれたことは、彼の過ちではない。そして、闇を視る運命に生まれついたのは、老人の落ち度ではない。
ただ、闇を求めたのは、弱さであろう。
「あなたは、狂っているわ」
老人は、愛美の言葉にせせら笑いを洩らした。
老人の過去に何があったか、もちろん愛美には分からない。
闇を求めたのは弱さだと、狂っていると決めつけるのはどうかとも思う。しかし自分が傷付けられたから、人を傷付けていい訳がない。
「どうして、立て続けに事件を起こしたの?」
長門は、愛美の横をすり抜けると、老人の背後に回った。
老人は、少しそれを気にしたようだが、
「人に頼まれたと言ったらどうする?」
と言って、小狡そうに愛美を見る。
愛美は、何か嫌な気分にさせられた。
「もちろん、それが何者で、何の目的であなたに事件を起こさせようとしたのか、話してもらうわ」
老人は、ヨロヨロと覚束ない足どりで立ち上がる。
愛美は、流石にそれを助けようとはしなかった。老人は、ニヤリとどす黒い笑みを浮かべると、激しく愛美に向かってまくし立てる。




