STEP2 皆殺しのJungle 31
命を落とす覚悟なしで渡り合えるものではないし、またそれだけの覚悟がなければ相手を殺すことだってできない。
「七人の命の代償は死だと、あなたは分かっているのね」
愛美は、再び右手に力を込めた。
〈明星〉の刃先を、二匹の生き物に向ける。
「来なさい。私は、お前達の敵よ」
帝聖か覇王かのどちらかが、愛美にまず襲いかかった。
降り下ろされた爪を、匕口で押し戻す。
もう一方が足元に飛びかかってきたのを、愛美は蹴り飛ばした。
大した衝撃は受けずに、二匹は一旦後ろに引く。
そして、今度は二匹一緒に愛美に向かってきた。愛美は〈明星〉の刃を横に向けて、叫んだ。
「帝聖、覇王」
「闇は、闇に還るがいい」
閃光、そして爆発。
細く目を開けていた愛美には、すぐ目の前で光に飲み込まれて、脆くも崩れていく二つの影が見えた。
愛美は光が消えた後も、暫く両足を開いて短刀を構えたままの姿勢で立っていた。
一つ溜め息を吐いて愛美は、短刀を握っていない左手で軽く宙を掴む仕草をする。
白木の、手に馴染むしっくりした鞘に刃を収め、今度手を下ろした時には、愛美の手には何一つ握られていなかった。
愛美は、老人の方に向かって歩き出す。
「闇は、闇に還った。さあ、話を……」
老人は一歩二歩とあとじさると、その場に膝を落とした。
愛美は、途惑いを隠せないまま、号泣する老人を見下ろしている。
老人の側には杖と、生活用品でも入っているらしいズタ袋が転がっている。
激しい鳴咽の合間に老人は、何たることかと呻きながら、地面を拳で打ちつけていた。
愛美は、複雑な顔で立ち尽くしている。
老人が、ようやく落ち着いたのを見計らって、愛美は言った。
「あの化け物に、人を襲わせていたのね?」
「化け物ではない」
老人の声は、小さくて聞きとり辛かったが、ようやくまともな返答が期待できそうだ。
「あなたは何者?」
「お前こそ、陰陽師なのか?」
質問に、質問で返された。
目を上げた老人の顔には、怯えた小動物のような表情が張りついていた。
愛美は、年寄りに接したことがない。両親ともに親を早くに亡くしていたので、祖父母という存在がなかったのだ。
この老人、幾つぐらいなのか見当もつかなかった。
老人の顔には、細かい皴が縦横に走っていて、七十にも八十にも見える。
「質問しているのは私……私は陰陽師じゃない。鬼道を使うのかと、言われたことはあるけど、私は呪術使いじゃないわ」
十年前に滅んだ陰陽師の一族、夜久野家に遠い遠い縁があるというが、愛美に陰陽力がないことは綾瀬も認めている。




