STEP2 皆殺しのJungle 30
三崎高校で教師を壁の中に引きずり込んだのも、きっと同じような生き物だったのだろう。
闇を人が飼い、操ることがよくあることなのか、陰陽師ではない愛美には分からないところだった。
綾瀬の飼っている三眼の烏は、式神だ。
愛美と一時期生活を共にした山犬神と式神、そして今目の前にいる生き物は、同じ闇から生まれたものではあるが、生まれた意味合いが異なっている気がした。
老人は愛美を指差して、
「殺せ。噛みつけ、爪で引き裂け。敵じゃ」
命令する。
二匹の獣は、愛美の力を計りかねているのか、すぐには襲ってこなかった。
泰聖……これでもない。覇王、覇王だ。
「なぜ、マッドドッグの手口を真似たの。あなたは何を知っているの?」
老人には、愛美の言葉は何一つ届いていないようだった。
「我らの安寧を守るのじゃ」
爆発する前のように、覇王ともう一匹のタイ聖は(どちらがどちらか、愛美には区別などつかないが)力を貯めるように身を沈めた。
かかってくる。
愛美はそれよりも、老人が愛美の言葉に何一つ反応を返さないことが、腹立たしくて仕方がなかった。
言葉が通じない。まるでこれでは一人相撲だ。
「話を聞きなさいよ。死んだ人達の安寧を破ったのは、あなた達じゃない」
身体一杯、愛美が叫んだ時、二匹の化け物達は跳ね上がると、愛美に襲いかかってきた。
愛美の脳裏に、一つの文字が浮かび上がる。
帝聖だ。
鋭い爪に恐れをなして愛美は、目を閉じて身体をちぢこめるようにした。
パスッパスッと気の抜けたような音に、愛美は蹲りかけた姿勢を起こしつつ向きを変える。
帝聖と覇王は愛美の背後に着地して、嘲るような奇妙な啼き声を立てて、長門を威嚇していた。
「力み過ぎだ」
長門は、威嚇射撃だけのつもりだったようだ。
愛美は、危うく自滅を免れた。
あの爪や歯なら、愛美の体を引き裂くことなど簡単に違いない。
長門は二匹の獣にも注意を払わず、銃のサイレンサーを外すと、それぞれ尻ポケットとホルスターへと仕舞っている。
普通の弾丸では、その化け物を殺すことができないことを、長門は知っている。そして愛美も。
「愛しき子らを、そのようなもので傷付けることはできぬ。お前は、敵にはなれぬ。お前は、敵だろう。我らをどうやって狩る。狩る者と狩られる者の立場は同一じゃ」
老人は、長門は敵でなく、愛美が敵であると言った。
狩る者と狩られる者の立場は同一なのは、確かだ。いつだって、愛美は命を賭けてきた。




