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STEP2 皆殺しのJungle 25

 それと同様、事件に遭遇しなかった人間にとっては、殺人ウィルスやDr、コンタミネーターという言葉は、死語に等しいだろう。


 殺人ウィルスをバラ撒いたDrを、警察は特定することができなかった。


 犯人が誰かを知っているのは、愛美と綾瀬だけだろう。

 巴には、Drの正体を知らせていない。


「だって同じ人間だったら、巴君に負けたことも分からない馬鹿者ってことでしょ」

 我ながら、苦しい言い訳だ。


 綾瀬も愛美も、一生その事実を胸に抱えて生きていくに違いない。


 巴は、Drその人の名を知ることは、永遠に有り得ないのだ。


 今、出回っているDrのメールが、以前のものと同じである訳がない。

 もう相手は、この世にいない人なのだから。


 歴史は繰り返すと言う。

 なぜそっとしておいてくれない。


 何の為に同じことを繰り返す。あるのは悲しみだけではないか。


「マッドドッグに、Dr。二番煎じもいいところじゃない」

 愛美は怒りを込めて、吐き出すように言った。


 面白半分や嫌がらせ、暇潰しや何かで、簡単に犯罪が行われてしまう現実。


 処罰を下すこともできなければ、悔恨することすらない犯罪者達。


 そんな犯罪を誰が裁く?

 犯罪者達に自分の罪を、誰が思い知らせてやれる?



「二度とそんな奴が現れないように、きついお灸を据えてやります」

 巴はそう言って唇を歪めて笑って見せたが、目は笑っていなかった。


 犯罪をオモチャにする人間に対して、並み並みならぬ怒りを覚えているのは、愛美とて同じだ.


「私も、何か燃えてきた」


 もう、レポートどころじゃない。愛美は両手を握り締めて、気合を入れた。


「無理はしないでください」

 巴は労るような眼差しでそう言うので、愛美はわざと悪戯っぽく肩を竦めて見せる。


「このレポートを仕上げる方が、よっぽど無理だわ」

 巴は、普段の行いが悪い所為ですよと、しれっとして言う。


 呑気なことを言っていられるのは今だけだと、二人とも知っていた。


 愛美は、手を伸ばして巴の頬をつねろうとしたのを躱されて、可愛くないんだからと毒づく。巴は巴で、よく言われますとあっさりと返して、愛美を更に悔しがらせていた。


 それでも日常は確かに、非日常へと繋がっているのだ。




 朝から降っていたみぞれ混じりの雨は、昼にはやんでしまった。


 今年最初の雪になるかも知れないと言う愛美の思惑は、見事に外れる。

 クリスマス前に雪が降ることなど数えるほどしかなかったし、イブに雪が降った記憶は一度もなかった。

 今年は暖冬だと言われているから、二月頃に少し吹雪く程度で、積もることはないだろう。

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