STEP2 皆殺しのJungle 23
愛美は手早く書類をめくって、巴の手によるパソコンの文字を追った。
吸血事件は、元々管轄外だ。
愛美が手がけているのは、マッドドッグ事件に類する手口で行われている事件なのだから。
巴は、死体発見現場を地図にしてくれていた。
その、人の死を表す黒い点々は、合わせて七つにも上った。
点が一つだけポツンと離れている理由は、長門によるところが大きい。被害者は、既に長門によって殺されていたのだ。
「やっぱり都心部に集中している。それを考えると、この長門さんの埠頭のやつだけは違うわね。もしかしたら相手は、この辺りを根城にしていたのかしら。吸血野郎が、間違っても自分の店のある付近では襲わずに、新宿歌舞伎町や銀座に足を伸ばしていたことから考えても」
繁華街の中の死角こそが、彼らの舞台だ。
日常と非日常は繋がっている。一歩踏み出したその時が、悪夢の始まりにもなるのだ。
「犬や猫を食べるとすると、あまり都心には近付けない訳です。迷い犬や野良猫は、それこそ路地裏に溢れてます。人間を餌にするなら、あまりつまみ食いはして欲しくないでしょう」
人や生き物の死も、記号化されてしまうと、冷淡なほどにありふれたものに見えてくる。
巴にとってクラディスの死は何物にも比べられないだろうが、赤の他人の死とはつまり、地図に記された黒い点のようなものなのだ。
「ナイス着眼点。長門さんのあれで死体が発見されて、多分向こうは慌てたでしょうね。警察もウロウロしたろうから、根城を移したんじゃないかしら」
長門が聞いたと言う、また犬か猫を食べたのかという台詞から考えても、相手はまさかそんな所に人の死体が転がっているとは思ってもいなかった筈だ。
もしその近くに居を構えていれば、捜索の手が伸びてくることを何よりも恐れたことだろう。
ならば、やはり埠頭辺りを根城にしていた可能性は高い。
移るとしたら、どこに移るだろう。あまり都心から離れられないならば、行く場所も限られてくる。
「どこかで、犬や猫が急に減ったなんて噂がないか調べてみましょうか。もしかしたら、ほとぼりが冷めた頃、元の場所に戻る気かも知れない」
巴は、早速立ち上がろうとしている。
リビングで、埃をかぶるに任せてあるパソコンに向かう気なのだろう。
深い意味で言ったのではないらしい巴の言葉に、愛美は何か引っ掛かるものを覚えた。何か、ヒントが隠されている気がする。
場所、場所が問題なのか?
「場所に固執する訳。埠頭、港、海、海の近くであること?」
愛美は、立ち上がった巴を腕で制した。




