STEP2 皆殺しのJungle 21
トランクに入っている荷物を、紫苑に出しておいてくれと頼まれたのだと言った。
紫苑の車のキィを持っていて、愛美は疑うことすら知らなかった。
勝手にとり出すのも気が引けるので、立ち会ってもらいたいと言われ、愛美は素直に車の外に出た。
女は、愛美より頭一つ分以上は高かったが、それはヒールのある靴を履いている所為だ。
紫苑はパンプスを履くと、百八十を優に越えてしまうので、フラットシューズにしている。
トランクを開けて、これでしょうかと指差すので、愛美は何の異常も感じずに女の側に寄った。その途端愛美は抱き上げられて、殆ど空に近かったトランクへと押し込められる。
蓋をバンと閉められて、辺りが真っ暗になって初めて、愛美は自分が騙されたことに気付いた。
鍵を閉められ、こんなところに閉じ込められては手も足も出ない。
相手の顔ぐらい、チェックしておくべきだったのだ。
叫んでも、誰にも聞こえないだろう。
愛美は歯噛みしながら、ただ紫苑の無事を祈っていた。
今すぐ愛美がどうこうされることはない筈だ。
危ないのは紫苑の方。
帰り際に交わしていた紫苑と愛美の会話から、愛美達が何者かを悟ったに違いない。
それから一時間ほどで、愛美が紫苑に救出されるまでの間、愛美は眠気など感じることもなく、息苦しさに耐えかねていた。
あれほど、長く感じた一時間というものもない。
愛美を閉じ込めておいて相手は紫苑を、愛美が呼んでいると言って呼び出したらしい。
大変なことになったから早く来てくれと愛美に頼まれたと言われて、紫苑はのこのこと出て行ってしまったようだ。愛美も愛美なので、人のことは言えた義理ではない。
彼と呼ぶのは、可愛そうかも知れなかった。身体は男であったとしても、美しさを求めたのは、やはり悲しい女の性と言えるだろう。
これは紫苑の受け売りだから、愛美は詳しくは知らない。
人の血を飲んだり浴びたりすると、若さをいつまでも保つことができると、昔から信じられているそうだ。
若い娘を攫っては、身体から血を抜いて飲むという希代の猟奇殺人事件が、ヨーロッパでは実際にあったらしい。
吸血鬼事件の犯人は、血を吸わねば生きていけない、それこそ異形であった。
生きる為に、獣の血を啜っていたようだ。
そこで止めていれば、誰かに狩られることもなかったのだと思う。
愛美なら、どう終わらせただろう。
あろうことか紫苑は、自分を最後にしてくれるなら、血を吸ってくれて構わないと言ったようだ。
紫苑らしい終わらせ方だとは思う。
もし紫苑が死んでいたら、もちろんそんなふうな悠長なことは言っていられなかった。




