STEP1 Frozen Flare 12
愛美は、やってられないと言うように溜め息を吐くと、表情を改めた。
「日給の相場は?」
仕事を請けるという了解の印のつもりだ。
それに綾瀬は、愛美の煙草の煙を吹きつけるようにしてあっさりと言った。
「無料奉仕だ。当たり前だろう」
こういう時ほど、この男の無表情に腹が立つことはない。
今度こそ、愛美が綾瀬に指を突きつける番だ。
「鬼、悪魔、児童福祉法で訴えてやるんだから」
都内。スタジオ。pm 2:00
こちらが電話で指定した時間ちょうどに、SGAから派遣されたという人間が二人現れた。
一人はかなりデカい細身の男で、もう一人は女の子だ。
見たことがあるような気がする少女だと思ったら、コーヒーを出してくれた子だった。
本人の弁通り、社長秘書ではなかったらしい。
まさかこの少女が、ボディガードの交替要員なのかと一瞬驚いたが、答えはNO。
少女の派遣理由は、社長の指示だという一点張りで、どのような役割が課されているのか話そうとはしなかった。
自分に対する支払いは必要ないと強調された為、スタイリスト見習いという名目で、働いてもらうことにした。
一応は構わないと言ったが、この業界に素人の出る幕はない。邪魔になるだけだろう。
しかし、あのSGAは一風変わった〈何でも屋〉だという。
だったらこの少女にも、何某かの役割が与えられている可能性はある。
女の子は、近藤愛美だと名乗った。
二十歳だと言うが、それよりは大人びて見える。
社長に対してあんな口の聞き方ができるのだから、気は強い方なのだろう。
果たしてうまくやっていけるか心配である。
ボディガードを頼んだザキを含めて、Frozen Flare のメンバーは個性派揃いだ。問題を起こさないでくれるといいが。
少女は、ラフなデニムとコットンシャツと言った格好で、今時の若い子にしては珍しく、顔には化粧気はなかった。
髪の毛を一つにまとめただけで、赤い縁の野暮ったい眼鏡をかけていた。あまり、服装には構わないタイプらしい。
先日会った時に、少女が眼鏡をかけていたのかさえ私には覚えがなかったが、まあ、かけているんだから、かけていたんだろう。
それほど印象は薄く感じられた。
私もこの業界は長い方だ。ものになるかならないか、見抜く目は鍛えられている。
この少女の場合は、パッと目を引くようなものはなかった。あくまで普通の女の子だ。
忙しく立ち働いている峰を呼んで、私は愛美を、ただスタイリスト見習いだとだけ紹介した。




