STEP2 皆殺しのJungle 15
愛美は尊大に腕を組んだ姿勢で、
「自分でやっててよく言うわよ」
冷たく言い放つ。
聞き取れなかった紫苑は、何か言いましたかと聞いてきたが、愛美は知らん顔で、別にとだけ言った。
それでも、男の方をチラリと見るのは忘れない。
「お言葉に甘えても構いませんか?」
紫苑はそう言ったが、男は明らかに愛美を意識している。
「あっ、えっとまだ仕事が残ってたんだ。悪いけど、キィ貸すから、勝手に乗ってちゃってくれる」
ポケットをチャラチャラ言わせ、男がとり出した鍵を紫苑に渡そうとするのを、愛美が横合いから手を伸ばして奪いとる。
男はアッと言ったが、それ以上何か言おうとはしなかった。
「残念でした。どうも、お邪魔様」
愛美は嘲るように語尾を伸ばして言った後、キィホルダーを指先で回しながら、先に立って駐車場から出て行こうとしている。
紫苑は何がなんだか分からないまま、店のマネージャーから駐車場と、車を止めている場所を聞いて、慌てて愛美を追おうとした。
するとマネージャーは、紫苑の腕を掴んで引き止める。
「彼女、男の子ってことはないよね?」
紫苑は、どう反応していいのか分からずに、どうしてそう思ったんですか?と聞いた。
「いや、男前な性格だなと思って」
それが誉め言葉なのか何なのか分からないまま、紫苑は愛美を追って男の元を離れる。
愛美は、駐車場から少し離れた路上の暗がりで紫苑を待っていた。
「うまくいきそう?」
愛美は、まず最初にそう聞いた。
「相手が動くとすれば、明日か明後日か、でしょうね」
紫苑に合わせて、愛美は路地を曲がる。
「あまり、気乗りはしませんよ」
紫苑の声音は沈みがちだ。
吸血事件の解決によって、ようやく愛美の出番となる。
いき当たりばったりで事件に遭遇する確率に頼るより、囮にできるものがあるというのは大きな違いだった。
綾瀬の御膳立てした、人の命を餌にするという案が、人道的配慮にかけるというのは愛美も認める。
紫苑が、あまり気が乗らないというのも分かる。
「おびきよせる為に、人を使うのは私も反対なんですよ。それが被害者ではなく、加害者の方ならどうですか? 現行犯で押さえたら、被害にあった人も、まだ輸血で助かる筈なんですよね」
そう。
餌は、吸血事件を起こしている人間で十分だ。
それが、奴にとっての罰だろう。
マッドドッグもどきと、吸血野郎と、一石二鳥で事件に終止符が打てる。
紫苑は、やはり沈んだ声のまま言った。
「殺すしかないのでしょうか」




