STEP2 皆殺しのJungle 11
「又、犬か猫でも食ろうたのか。そんなものなんぞ食わぬとも、餌なら昨日やっただろうに」
長門は思うより先に駆け出して、影が消え、声の聞こえた方角に向かっていた。
それでも、長門には何一つ見つけることはできなかった。
残された死体の腹は醜く裂かれ、食い荒らされた内臓が腐臭とともに辺りに散らばっていた。
「タイセイ、ハオウか。字が分かればいいんだが、それでも名前が役に立つこともあるだろう。餌を用意する必要があるな。血の滴る生肉がお好みでは、吸血鬼に襲われた人間を回避するのも当然と言えば当然か。まず吸血鬼の犯行現場を押さえて、可愛そうだが襲われた人間に、マッドドッグの方の贄になってもらおう」
愛美は綾瀬の言葉に、すかさずマッドドッグじゃありませんと、文句をつける。
どちらでも構わないと綾瀬にすげなく返されて、愛美はムッとして押し黙った。
口では可愛そうなどと言っているが、悪意に満ちた(穿ち過ぎか?)物言いには、いつものように何の感情も認められない。
それこそビジネスライクと言うか、人の命すら踏み台にできるからこそ、綾瀬はここまで伸し上がってくることができたのだろう。
週刊誌でとりあげられた新たなマッドドッグ事件は、どうやら以前のものとは別物である線が濃厚に思えてきた。
長門が目にした二匹の獣が、マッドドッグの正体なのではないか。
七時過ぎに、ニュース速報で、埠頭で死体が発見されたとの報があった。
一連の変死事件と一緒くたにされていたが、昨夜のは長門の手によるものだ。
死体の損傷がひどいので、後始末をつけるのに困り、長門は依頼主に指示を仰いだと言う。結果、弾だけ回収して処理はせずに放置しろと言われたと言う。
依頼主は、変死事件の話を知っていたのだろう。相手の思惑通り、長門の殺しも変死事件の一つに数えられることになった。
通学前に長門の部屋を覗くと、いつものように朝から酒を喰らっていた。
綾瀬の所に事後報告に行くと言っていたので、鉢合わせするかと思っていたが、朝の内に済ませてしまっていたようだ。
愛美が、午前中までだった学校からの帰りに綾瀬のマンションに寄った時には、紫苑が来ているだけだった。
「吸血鬼の方は、潰すばかりなんでしょう? じゃあ私、そっちもやります。本命は、もちろん前者の方ですけど」
愛美の背後で、紅茶のカップを携えた紫苑が、扉を開けて入ってきた。
紫苑が身を置いている教会の神父が体調を崩して、入院していたらしい。看病疲れか、心配の為か、紫苑自身も窶れているようだった。




