STEP2 皆殺しのJungle 4
所詮生物と侮って、誰も真面目に勉強していないいい証拠だ。その中で、八十点以上とれというのは、ひどい話だろう。
毎回のテストで七十点代をキープしている愛美だが、七十から八十の壁は越えるに越えられないものがある。
ああ、話が思いきり脱線してしまった。テストのことはもういいのだ。
一日目にあった生物は、八十点を越えている自信がある。徹夜までして――お陰で危うく電車で寝過ごしそうになったぐらい――なのだから、できている筈だ。
だから綾瀬から、昨夜電話をもらった時は、試験中でなくて本当によかったと思ったものだった。
生物が終わって気が抜けたのか、後のテストのできはさっぱりだったが、赤点さえなければそれでいい。
「どうする?」
綾瀬に聞かれて愛美は、雑誌に目を落とした。
しかし、迷うまでもないことだ。
答えなど、初めから決まっている。
「マッドドッグをやらせて下さい」
「まあ、お前のことだ。そう言うだろうと思ったがな」
綾瀬は、軽く喉の奥を鳴らして、椅子に深く身体を預ける。
愛美がこの雑誌をもらってもいいかと尋ねると、綾瀬は今の状況では巴に調べられることはないので、その雑誌の記事が情報の全てだと答えた。
愛美は、ソファに戻ると通学鞄に雑誌を仕舞う。
吸血鬼をとり扱った記事を寄稿していたのが、愛美のよく知っている人間であることに、愛美は最後まで気付かなかった。
人の出会いは一期一会、それこそ縁なのだと、綾瀬一人が胸の内に仕舞い込んだ。
「紫苑の手が空いてる時は紫苑を、長門の仕事が片付けば、長門を使え」
愛美は綾瀬の言葉に頷くと、冷めるに任せてあった紅茶を一息で空ける。手早く帰り支度をすると、愛美は後も見ずに部屋から消えた。
「今度は、違う終わりにして見せます」
綾瀬の元には、言葉だけが残される。
いつものポーカーフェイスのまま綾瀬は、それでもどこか悲しげに首を微かに横に振った。
いつまでも癒えることのない傷口が、開いたままでいるかのようだ。
時すらも、忘れることを許そうとしないのか。終わった筈のことが、まだ終わっていないと、全てはこれからだと囁くかのようだ。
「まだ、マッドドッグだとは決まっていない。吸血鬼が、吸血鬼だと決まっていないようにな」
綾瀬は、深く煙草の煙を吸い込んだ。
その顔は何かを案じているようでも、怒りを覚えているようでもあった。
*
――今朝未明、新宿区内で、××さんは変死体で発見されました。




