STEP1 Frozen Flare 10
一度、音楽雑誌に載っていたグラビアを見せてもらったが、ビジュアル系アイドルはどれも同じように見えて仕方がなかった。
件のファンだというクラスメイトは、自分もバンド活動をやっているぐらいの音楽好きだが、どうにも愛美には縁のない世界である。
特に、顔を売りものにしているようなアイドルグループには、ついつい拒否感を覚えてしまうぐらいだ。
ザキも、まるで女の子のように可愛いルックスだったが、あんなもの化粧や衣装、写真家の腕でどうとでもなるのではないかと、僻み根性を含めて思ってしまう。
何よりも、紫苑という超絶美型を日常的に見慣れている愛美には、騒ぐようなことにも思えなかった。
テレビのアイドルよりも、生身の紫苑。これは格言に出来るかも知れない。
「薬をヤッてるとか、美少女アイドルを妊娠させたとか、未成年の癖に酒飲んで暴れたとか。勿論、ファンに手を出したとかいう話もあるみたい」
アイドルなんかに入れ込んで騒いでいるのを嗜めるつもりか、否定的な話も飛び交っていたが、ファンの子も全部の話を否定していた訳ではないから、相当のものなのかも知れない。
愛美は話半分に聞いていただけなので、うろ覚えな感は拭えない。
もしかしたら、違ったかも知れない。違ったらかなり失礼であるし、大嘘を綾瀬に教えていることになる。
まあ、どうでもいいが。
クラスメイトは、可愛い系のボーカルではなく、ベースの子が好きだとか言っていたような気がする。
ウミ、ウミハル。そう、ウミハルだ。
あと、三人。しかし、愛美の記憶もそこまでだった。
仕事と学業の両立は難しい。
いつもどちらかの影に付きまとわれて、いなければならない。
東大寺が、出席日数が足りずに留年したのも不思議ではない。いや、東大寺の場合は、成績も問題になっていたのか。
「それはまた」
綾瀬は愛美の言葉に、微かに肩を竦めた。
それはまた大変なことだ、か、それはまた羨ましい限りで、かどちらともとれない言い方だった。
表情は、いつも通り何を考えているのか分からないものだ。
「ミュージシャンにその手の噂はつきものでしょ。グループだったら、本当は仲が悪いとかゲイでできてるだとか、そういうのと一緒じゃない?」
グループ仲は、かなり悪いと聞いている。
綾瀬は呆れたのか何なのか、もう何も言わなかった。
一体誰のボディガードをするのか知らないが、考えるだけで気が滅入ってくる。人間関係というのは、端から見ているだけでも、やきもきさせられるものだ。




