#003「ジェネレーションギャップ」
@苦楽園
ツルコ「それで昨晩は、そのままお言葉に甘えて、お夕食までいただいてきたって訳ね?」
タエコ「あたしのことを、さんざん悪し様に言っておきながら。幸姉さんの方が、よっぽど図々しいじゃない」
サチコ「そうね。他人のことを言えないわね。でも、あのコミュニケーション力の高さには脱帽だわ。質問に応えてるうちに、いつの間にか世間話になってるんだもの」
ツルコ「好奇心旺盛で新し物好き。よく喋るし、よく食べる。心は常に夢見る少女のままの、天真爛漫なお嬢様」
タエコ「あぁいう歳の重ねかたをしたいものね。気持ちだけは若々しくありたいものだわ」
サチコ「本当に。二十五歳を過ぎたら貰い手が無くなる、なんて偉そうに言ってるお馬鹿さんにたちに、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」
ツルコ「クリスマスケーキと一緒だっていう、アレね。フン。女性を見た目でしか判断できない殿方には、買い取っていただかなくて結構よ」
タエコ「近頃は賞味期限が延びて、年越し蕎麦で例えられるみたいよ」
サチコ「あら。それなら、あたしたちは、まだチャンスがありそうね」
ツルコ「ちょっと。あたしだけ除け者にしないでよ。同じ一千年代生まれでしょう」
タエコ「強弁すぎないかしら? 枠が広すぎて、平安貴族と同列になってるわよ」
サチコ「せめて、二十世紀枠で括るべきね」
ツルコ「昭和生まれで括っても、あたしと幸子は同じよ。まぁ、雪子と妙子は違うけど」
タエコ、両手を挙げる。
タエコ「平成生まれ、万歳。フルカラー、万歳」
サチコ「誰がモノクロよ。生まれた頃から、フィルムは総天然色だったわ」
ツルコ「そうよ。初めて手にしたカメラだって、エーピーエスだったわ」
タエコ「八ミリや三十五ミリではないの?」
サチコ「いつの時代の話よ」
ツルコ「セットに失敗して、途中で噛んで台無しにする虞がなくなって、ケースに入れなくても良くなって、ハイビジョンサイズで写せるようになって、二重露光防止機能もついたんだから」
タエコ「幸姉ちゃん、翻訳して」
サチコ「説明が理解できなかったのね。要するに、当時としては画期的な発明だったってことよ」
ツルコ「そういえば、カセットテープやビデオデッキ、エムディーの話でも同じ反応だったわね」
タエコ「消費税三パーセント世代だもの。缶コーヒー百十円、官製ハガキ四十一円。ビリジアンにバーミリオン」
サチコ「最後の例えが、よく分からないんだけど」
ツルコ「この前、和服をお召しになった年配のお客さんが何人か団体でいらしてね。縹色とか鴇色とか言われたり、サンドベージュをカーキと言われたりして、少しばかり往生したことがあったのよ」
タエコ「いつもはグリーンとかオレンジとか呼んでるでしょう? だから混乱しちゃって」
サチコ「緑でも青信号、ホウレン草は青菜だものね。言い方の多様性を認めると、時として収拾がつかなくて困るわね」
ツルコ「色々と、ね。ところで。雪子は知らないって言うから、二人のどっちかだと思うんだけど。昨日の昼に、お客さんからいただいた和菓子があって、四つ入りだからちょうど良いと思って冷蔵庫に入れておいたんだけど、今朝見たらスッカリ無くなってたのよ。知らないかしら?」
タエコ「あたしが全部食べたって言いたいの?」
サチコ「いくらなんでも、一人で四棹も食べられないわよ」
ツルコ「おかしいわね。箱ごと入れておいたのに、何で棹物だって知ってるのかしら?」
ツルコ、二人を睨む。
タエコ「いけない。用事半分で出てきちゃったんだった。ね、幸姉さん」
サチコ「そうだった、思い出したわ。ここはお姉ちゃんに任せて、あたしたちは家に戻りましょう」
二人、立ち去る。
ツルコ「そこの共犯二人、待ちなさい。事情聴取は終わってないわよ」
ツルコ、二人を追う。
――このあとのことは書きたくないわ。閉店後に帰って来たお姉ちゃんに、コッテリと油を絞られたから。




