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#001「スノーグラス」

@苦楽園

――ごきげんよう。また、お話できて光栄だわ。早速だけど、この前お約束した通り、あたしたちのお店をご紹介していくわね。

情報を悪用されるのが怖いから具体的な住所は伏せるけど、あたしたちは、苦楽園口の駅に程近くて、目の前をバスが往復してる場所に店舗を構えてるの。

それで、日曜日と季節ごとの臨時休業期間以外は、朝の十一時に開けて、夜の七時には閉めることにしてるの。ただ、取り置きの品物を受け取りにいらっしゃることもあるから、閉店後も居残らなきゃいけない場合もあるわ。

ちなみに今の時間は、お昼の二時過ぎで、一日で一等に暇な時間帯なの。

少し手狭な店内には、この通り、カントリー調の棚やバスケットに商品が並べられ、詰め込まれてるのが瞭然でしょう。お野菜や果物といった生鮮品や、お酒や煙草といった嗜好品は置いてないんだけど、加工食品や清涼飲料、それから、文房具や雑貨を取り揃えてるの。

どれも舶来品で、仕入れや在庫の管理に関しては、お姉ちゃんが仕切ってるから、詳しいお財布事情は、お姉ちゃんに訊けばわかるわ。

そうそう。お店の名前をお教えする約束だったわね。忘れないうちに、お伝えしなきゃ。

そこのショーウィンドウやドアの窓にステンシルでもって噴きつけてあって、こうして店内から見ると鏡文字になってるから読みにくいかもしれないんだけど、スノーグラスっていうの。

スノーとグラスが何に由来するのかは、教養の高いみなさんならお分かりでしょうから、野暮な解説は控えるわね。フフッ。気になるかたは、各自でお調べ遊ばせ。

タエコ「また小説を書いてるのね、幸姉さん。今日は、どんなお話?」

サチコ「期待してるところ申し訳ないけど、これは、ただの日記よ」

タエコ「嘘、嘘。ただの日記を書いてて、そんな風にニヤニヤするものかしら? おおかた、あたしや雪姉さんや鶴姉さんを出汁にして、コメディーでも書いてたんでしょう。どう? 図星でしょう。結構当たるのよ、あたしの勘」

サチコ「残念でした。大ハズレよ」

タエコ「あら、珍しい。今日は雪が降るかもしれない」

サチコ「この寒さだから、雨でないことは確かね」

タエコ「それで、さっきの電話だけど、六麓荘の福井さんからだったわ。配達をお願いしますって」

サチコ「奥様から? 執事の彦星さんではなくて?」

タエコ「今日は直接だったわ」

タエコ、右手を口元に添える。

タエコ「福井でございます。いつもの品をお願いしますわ」

サチコ「口調まで似せなくて良いわよ。――つまり、サーバー用のミネラルウォーター、オイルサーディンの缶、オリーブの実の瓶詰め、紙箱入りのライ麦クラッカーで良いのかしら?」

タエコ「えぇ。それで良いんだと思うわ」

サチコ「それじゃあ、すぐに準備して届けてくるわ」

タエコ「あたしが行きたい」

サチコ「駄目よ。図々しくも長々と居座って、なかなか帰ってこないような人間には任せられません」

タエコ「だって、断れないじゃない」

タエコ、再び右手を口元に添える。

タエコ「もう、お帰りになるの? 淋しいから、もう少しお話しましょうよ」

サチコ「だから、口調まで似せなくて良いのに。――ひっそりとした広いお屋敷で人恋しいのかもしれないけど、半分は社交辞令なんだから」

タエコ「口やかましい姉がいないのが羨ましい」

ツルコ、店内に姿を現す。

ツルコ「それは、あたしのことかしら? ――ただいま」

サチコ「お帰りなさい、お姉ちゃん」

タエコ「心当たりでもあって?」

ツルコ「妙子。そうやって何でもズケズケ言う癖を直さないと、お嫁に行けないわよ?」

サチコ「そうよ、妙ちゃん」

タエコ「おあいにくさま。これまで、さんざん出逢いや婚期を逃し続けてる二人に言われても、説得力に欠けるわ」

二人、同時に。

ツルコ「妙子」サチコ「妙ちゃん」

――ここまできたら、もう隠す必要も無いでしょう。あたしたちの満年齢を書いておくわね。鶴子、三十四。あたし、幸子、三十一。雪子、二十八。妙子、二十五。四捨五入すると全員、三十。そして全員、シングル、フリー。

何だかショッパイ気分になってきたわ。さぁて。気持ちを切り替えて、福井家に行こうっと。


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