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第六夢 夢の中にいる本当の死神

 夢に知り合いが出てきたら、相手の使命を先に終わらせる。これが康介にできる、夢の中での最善策だ。結局、人間を殺すことに変わりはないが、自分と関わりのない人に対象を移し替えることができる。しかし、もし相手の使命が康介と同じく”殺すこと”である場合、その策は無意味だが。


 詩音と協力することを決意してから三ヶ月以上が経っていた。使命夢に関しては、取り立てて変わったことはない。詩音と康介の夢に知り合いが出現することもなかった。

 ここ最近、康介の身の周りで変わったことと言えば——


「おい、詩音。お前昨日の賭け負けた分まだ払ってねぇからな!?」


「うるさいわね、わかってるわよ。こっちだってお金ないんだからね!!」


「賢も詩音も金ないんだから、賭けしてる場合じゃないだろ!!」


 詩音が康介たちと行動することが増えた、ということくらいだろうか。

 康介たち、というのは康介、賢、晶、明音、花音、の五人のことである。ここ二ヶ月ほど、六人で行動することが多くなっていた。

——最初昼飯誘ったら、クラス違うから遠慮しておくわ、とか言ってたのに今じゃ遠慮もクソもなくなってるなぁ。


「借金でもなんでもするわ。賭けに勝てばいいんだから。賢と二人でトランプやってると埒が明かないわ。ほら、明音もやるでしょ?」


「もちろん!! あたしの運の良さを見せてつけてあげちゃうぞお。晶もやろーぜ!」


「やらないという選択肢が見当たらないな」


 最近の六人の定番と言えば、放課後一つの教室に集まって、金を賭けてトランプゲームをやるというものだった。なお、主催者は賢と詩音だ。花音と康介が参加することはほとんどなく、観戦することが多かった。


「花音、こんなトランプの試合見てて楽しい?」


「うん、楽しいよ。みんなが楽しそうにしてるのみるの」


 こうやって康介は観戦してる時、花音に話しかけることがある。見ているだけでは退屈だろうに、と思いつつ自分が暇だからなのだが。

 このトランプ大会は毎日夕方四時くらいから七時くらいまで続き、そのあとはそのまま解散か、ファミレスにいくか、がほとんどだ。


「さてと、そろそろ帰ろうぜ」


 賢が言うとみんな帰りの支度を始める。時計の針はもうすでに七時を少し通り過ぎていた。

 使命夢がなくて、ただこんな日々が送れたらどれだけよかっただろう、と康介は常々思ってしまう。

 最近の定番と言えばもう一つある。朝、HRが始まる三十分前に屋上に行くことだ。そこで詩音と落ち合い、前日の使命夢状況について報告し合うのだ。

 その日も康介は待ち合わせ時間ちょうどに屋上に到着した。


「……また詩音いないし」


 この日課も、集合時間も詩音が決めたことなのだが、その本人は毎日のように十分から十五分遅れてくるのだ。


「ごめん、遅刻したわ」


 焦った様子もなく、詩音が屋上にやってきた。


「また遅刻。詩音がこの時間に設定したんだからな?」


「悪いと思ってるわよ」


「そんなに急いだ様子もないみたいだけど?」


 詩音は、なんでばれた、とでも言いたげな顔をした。

 それ以上責めても改善が見られなさそうなので、康介はもう何も言わないことにした。

——俺も十分遅れてこよう。


「俺は昨日夢をみなかった。詩音は?」


「私は夜見たわ」


 知り合いはでてきた? と康介が問うと、詩音は言葉を詰まらせた。あまり良い話ではないのだろう。最近は本当に平和だったので、康介は少し緊張した。嫌な汗が出てくるのがわかった。

 不自然な間を置いてから、詩音は再び言葉を紡いだ。詩音も緊迫した雰囲気を帯びている。



「ここの女子生徒が二人でてきたわ。一人は……死んだわ」



 同じ学校の女子生徒が死んだ。それを聞いただけで康介はぴりぴりとした空気を感じた。神沢萌の時のことを思い出したのだ。

 知り合いじゃない人間を殺すことは、現実というよりは、夢の中の出来事のような感覚になってしまっていることに気づいた瞬間だった。


「死んだ……のか」


「うん……」


 詩音が悲しいような、虚しいような顔をした。


「私が召喚して、殺させた。知り合いを殺すっていうのはこんな感覚だったのね……。最初にあんたに会ったときの気持ちがわかるわ……」


 詩音の使命は人を殺すことではないが、人を殺してしまうこともあるだろうから仕方ない、と康介は思った。計画のために必要とかで、康介も詩音の本当の使命は未だに教えてもらえていない。


「……確かに心に来るよね。でも、詩音はそうせざるをえなかったんでしょ?」


 詩音は静かに頷いた。詩音のように優しい子が、故意に人を殺したりはしない。素直ではないが、詩音は心が優しいことを康介はよく知っていた。


「人の死には慣れたと思ってたけど、自分が知り合いを殺したとなると、こたえるわね」


 経験値が高いとはいえ、詩音は普通の女子高校生だ。知り合いを殺してしまったとなれば、平気でいることは難しいだろう。


 初めて詩音とあったとき、康介はなんて強い人なのだろう、と思ったが、一緒に過ごしているうちに、本当に普通の女の子だということに気づいたのだ。強がっている、普通の高校生だということに。


「悪いのは詩音じゃない。この夢だ。俺も知り合いをこの夢に殺せと命令されたんだ。……だから俺たちはこの夢を断ち切るんだろ?」

「……そうね」


 詩音は相当滅入っている様子だ。同じ学校の生徒を殺したのは初めてなのだろう。

 康介は詩音の気持ちに共感できる唯一の存在だっだ。


「康介、生きてる方の生徒の使命も人を殺すことだったわ」

「そうなのか」

「それに、あの子はかなりの愉快犯だったわ」

「!!」


 使命が殺すこと。そして愉快犯。康介はそれだけで今後起こりうる事態を容易に想像できた。校内の人間の大量殺人である。

 その生徒が対象を変えずに人殺しを行うとしたら、同じ学校の生徒や教師が夢に出てきても躊躇うことなく殺害するだろう。運の問題ではあるが、連続してそのような状況になった場合、知り合いの連続殺人が行われる、と康介は考えた。


「……その生徒に話をしないとまずそうだな」


「そうね、知り合いが死ぬのはやっぱりいい気分じゃないわ……」


 命に重さの差異はないが、やはり知り合いとそうでない人を選べと言われたら、知り合いの命を選んでしまうのが人間の性だろう。

 その日のうちに女子生徒に詩音が話をつけてくれたので、次の日の朝屋上に来てもらうことになった。

——夢の中で人を殺せば、現実世界でも死ぬとわかっていて、それを楽しんでるのか……そいつ。

 事実がわかるまで、康介も使命夢に快感を覚えていた時期があった。しかし、殺人夢だと気づいてからは一切そのような感情を抱いたことはない。

 その日の放課後、いつもと同じようにトランプ大会が行われたが、詩音は参加しなかった。みんな、主催者の詩音が参加しないことを心配していたので、康介は具合悪いみたい、と言っておいた。


 翌日、康介が屋上に着くと既に詩音が到着していた。今まででこんなことは初めてであったが、そんなことを言える余裕ある雰囲気ではなさそうだった。康介は詩音の表情を見ればわかった。


「おはよう、詩音」


「おはよ、康介。もう来たみたい、主役が」


 詩音に言われ康介は振り向いた。康介のすぐ後ろには女子生徒が歩いてきていた。

 ぼさぼさの長い黒髪に、どこか暗い表情。一目見ただけだが、印象はよくない、と康介は思った。


「わざわざありがとう。佐藤さん」


「……いえ」


 佐藤という女子生徒は、無表情だった。

——佐藤っていうのか。不気味だなあ。


「佐藤さん。単刀直入に言わせてくれ。夢にこの学校の知り合いが出てきたら殺しの対象を変えてくれないかな」


「……殺しの、対象?」


 佐藤が首を傾げた。どうやらまだ使命夢を見てから日が浅いようだ。

 使命夢のことや、対象の変え方などをざっと康介が説明すると、佐藤は理解したようだった。


「でも、対象を変えても変えなくても、人を殺すことになりますよね……?」


 不敵な笑顔を浮かべながら佐藤が言った。

 康介は正直ゾッとした。この女子生徒が考えていることが想像できたからである。

 詩音も、この後佐藤が何を言い出すか、なんとなく予想できてた。




「知り合いでも知り合いじゃなくても殺さなきゃいけないのなら、知り合いを殺したいです……」




悪魔のような笑みだった。




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