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四十三音目

 デリランテの無事だった建物の一室にフォルスを寝かせて、一行は隣の部屋に集まった。


 ほとんどの人物が神妙な顔をしている中、テナーが重たい口を開く。


「フォルスさんは、大丈夫なの?」


「大丈夫っすよ。死なない程度には回復させたっすし」


「でも、フォルスさんどうするの?


 目を覚ましたらたぶんソプラの所に行くと思うよ?」


「行かないとは思うっすけど……そうっすね。


 全てが終わるまで、誰かにフォルスさん見張っておいてもらうっすかね。


 今のフォルスさん相手なら、ユメ達の誰でも問題なく足止め出来るっすし」


 言いながらユメが見回し、ソメッソのところで目を止めて、微笑んだ。


 ソメッソは全てを察したように、ゆっくりと息を吐く。


「オレが見張っていればいいんだな?


 ユーバーとテナーが残る選択肢はなく、セグエはテナーについてくるためにいるわけだからな。


 役目のないオレが適任だろう」


「わ、私は別にっ」


 フォルスの言葉にセグエが噛み付こうとするが、ユメがセグエの前にやってきて話を遮った。


「大体正解っすけど、単純にソメッソさんがよわっちいからっす。


 何かあった時に、一番ソメッソさんが役に立たないっすからね」


「それは否定できんな」


「ってなわけで、ソメッソさんよろしくお願いするっすよ。


 ほら、テナー達行くっす」


 ユメに背中を押され、テナーとセグエが強制的に部屋の外に出されるのを、ソメッソはじっと見つめていた。


 話を聞かずにユメに押され、外に出たところで解放されたテナーが不満そうに声を出した。


「ユメ急にどうしたのさ」


「ソメッソさんを危険なところに連れていきたくなかったんですよね」


「何を言い出すんっすかね、このセグエは」


 テナーの問いにセグエが答え、ユメが首を振った。


 セグエの言葉の意味が分からないテナーが「どういうことなの?」と尋ね、セグエが答える。


「ソメッソさんは、アニマートさんの父に当たる人ですから」


「なるほど」


「テナーも納得しなくていいっすよ。ユメが言った事は本当の事っすから。


 危険にさらしたくなければ、むしろ一緒に来てもらうっす」


「じゃあなんで急いで外に出たの?」


「単純な話っすよ。ずっとユメ達をつけている人がそろそろ疲れそうだからっす」


 ユメがテナーとセグエから視線を外し、何もない場所を見る。


 つられて二人も視線を移したら、建物の影から髪がぼさぼさの冴えない青年が、頭を掻きながら現れた。


「やれやれ、見つかるとは思っていなかったですよ」


「むしろ、見つからないと思っていたんすか?


 ユメ達がデリランテに来てからずっと監視していたっすよね?」


「パカートさん!?」


「テナー君お久しぶりですね」


 ヘラヘラと笑うパカートを相手に、テナーが目を丸くする。


「何でパカートさんが此処にいるんですか?」


「その前にテナー、この方は誰ですか?」


 話を続けようとするテナーに、セグエが待ったをかけた。


 テナーはセグエの意見を一蹴しようとしたが、自分勝手だと改める。


「えっと、パカートさんはエスティントで会った、中央の演奏者……だったような」


「正確には中央の研究室室長、パカートと言います」


「研究室室長?」


 首を傾げるテナーをよそに、ユメがわざとらしく驚いた声を出す。


「研究室って言うと、兵士と対をなすところっすよね。


 そこのトップが何でエスティントに居たんっすかねえ?」


「ふむ。新しくついてきた二人はとても頭が回るらしい。


 なるほどなるほど……これは話しが楽になりそうだ」


「パカートさん?」


 急に口調の変わったパカートに、テナーが困惑して、瞬きをする。


 しかし、セグエもユメもあまり反応しないのでテナーが「二人とも何とも思わないの?」と尋ねた。


 セグエとユメは一度顔を見合わせて、先にセグエが答える。


「口調が変わった事でしたら、ユメさんで慣れましたし」


「口調変えるっすし」


「え、うん。そうだよね」


 テナーが納得したところで、パカートが「話は纏まったみたいだな」と話し始めた。


「僕がなぜエスティントに居たのか。答えは簡単。歌姫を探していたから。


 星の一つは南に落ちたからね。きっとエスティントの近くにはやってくると踏んでいたよ。


 案外来るのが遅くて、もう死んだのだろうかと思った所でテナー君と来てくれたから助かった」


「で、此処にいるのは、王様の命令か、王様を陰で操っているからっすね。


 恐らく後者だと思うんすけど、どうっすか?」


「操っていると言うのは心外だな」


 パカートが楽しげに返す声が、言葉とは違いユメの問いに肯定しているように聞こえる。


 何を言って良いのか分からなくなったテナーが「どうして」と声をあげた。


「別に操ってはいない。ただ、国王に教えただけだ。


 各地で国王への不満が高まり、戦争が始まるまでもう少しだと言う事と、歌姫の音を奪い自らが歌姫がごとき力を得る方法を」


「何でそんな事を」


「僕は歌姫が嫌いなんだよ。魔法で壁を作り、人々から外の世界を奪った歌姫がね」


 吐き捨てたパカートに、テナーは何か返そうと思ったが、上手く理解が出来なかったのか気弱そうに「どういう事さ」と口ごもった。


 パカートは教鞭でもとるかのように指を動かしながら、答えを返す。


「一説に歌姫は外から来るモンスターを大陸から遠ざけるために歌を唄っていると言う」


「その辺は知っているから大丈夫っすよ。


 要するに、歌によって大陸が外の世界から隔離……切り離されたって事っすよね」


 テナーとパカートの会話に割って入って来たユメに、パカートが満足そうに頷いた。


「本当に話が早くて助かる。外からの被害を防ぐ代わりに、歌姫は内から外へ行く事も制限してしまった。


 海の外の世界を僕は見たい。しかし、歌姫によって阻まれている。


 確かに歌姫が居たおかげで、圧倒的脅威から身を守ることは出来ているが、代償として人々は外の世界へ行けず、興味を持つことを奪われた。


 んー、奪われたは適切ではないか。愚かにも人々は海の外への興味を無くした」


「だから、王様たぶらかして、歌姫から音を奪ったんっすね。


 この際その辺はどうでもいいんっすけど、パカートさんは音を奪う方法を知っているんすね」


 ユメの言葉にセグエが頷き、テナーが驚き、パカートが不敵に笑った。


「もちろん。というか、僕が歌姫の音を奪ったんだよ。


 だから君達も僕に逆らわない方が良い。音を奪われた演奏者はもう魔法を使うことは出来ないからね」


「脅しとか別にいらないっす。


 奪うまでに時間がかかると思うっすから、ユメ達を相手にしながら音は奪えないと思うっすし、普通の魔法でもユメは発動させるよりも早く封じることが出来るっすし。


 何より、ユメは魔法を使えなくなっても基本困らないっす」


 言い終わる頃には、ユメは尋常ならざる速さでパカートの後ろに回り込み、パカートの左手を抑えていた。


 その左手には本が握られていて、パカートが高笑いしだしたかと思うと、本が手から消えた。


「やはり、君たちは強い。恐らく海の外に出ても生きていけるだろう」


「まあ、ユメは生きていけると思うっすよ。


 今の本が音を奪うための何かっすね」


「ご察しの通り。


 今のはいわば、歌姫でいう所の楽器に近いものだ」


「歌姫とは別の強大な存在の力を借りる媒体……ですね」


 セグエの言葉に、パカートが笑顔で頷いて返す。


 パカートはもう一度、黒い表紙の本を出現させ、テナー達に見せつけた。


「別の存在? 媒体?」


「やはりテナー君はおつむが弱いみたいだ」


 パカートが馬鹿にするが、テナーはわずかにムッとしただけでセグエの方を見た。


「ソプラさんが人ではないのは覚えていますよね。


 つまり、ソプラさんは海の外から来た存在になります。


 外の世界は私達には未知の世界ですが、他にもソプラさんのような存在がいても不思議ではない訳です」


「ソプラから力を借りるのに楽器を使うように、パカートさんに力を貸している存在から力を借りるためにはさっきの黒い本が要るって事?」


「で、その力って言うのが音を奪うってモノらしいっすね」


 セグエの説明に、ユメが付け加えた後、パカートが感心したようにパチパチと手を叩いた。


「僕に力を貸した存在、仮に『奪うもの』と呼ぶが、奪うものは歌姫に借りがあるらしい。


 だが、歌姫はこのちっぽけな陸地に引きこもってしまった。


 僕は外の世界を知りたい。だから協力することにしたんだ」


「協力?」


「僕が歌姫の守りを解く代わりに、力を貸す事。


 歌姫から音を奪い、守りを消した時点で僕としては一刻も早く外の世界を調べたいが……」


「歌姫と奪うものの決着がつくまで、動けないんですよね」


「その通り。歌姫の力は強力で、音を奪った後も魔法が消える事はなく、一年以上が過ぎてようやくほころび出した。


 今日ここにいたのは本来君たちを監視するためではなく、どのレベルのモンスターまで網をくぐれるようになっているのかを見るためだ。


 そして確信した、奪うものは間もなくこの地にやってくる」


 両手を広げ、子供のように待ちわびた顔をするパカートを、テナーが凄い剣幕で睨み付ける。


「パカートさんは、自分の為だけにソプラから音を奪ったって事だよね?」


「否定はしない、がどうする?」


「許さない」


 テナーが和太鼓を出現させ、撥を高々と上げる。


 思いっきり腕を振り下ろそうとしたところで、振り下ろすはずだった腕が誰かに捕まれている事に気が付いた。


「ユメ何するの。パカートさんが、ソプラの……」


「テナー、気持ちは分かるっすけど、違うっすよ。


 ユメ達がすべきことはパカートさんを倒す事ではなく、パカートさんに着いてきてもらう事っす。


 ユメ達が探していた、音を奪う事の出来る唯一の人っすよ」


 ユメに窘められ、テナーが悔しそうに腕をだらんとおろした。


 すぐに、セグエがテナーに近寄り「ありがとうございます」と礼を言う。


 何故お礼を言われたのかテナーが分からないでいる間に、ユメが話を進めていた。


「まあ、どうやらパカートさんはユメ達に協力してくれるみたいっすからね」


「今でこそ無理とは言え、姿を見られていない状況から逃げ出すことは出来たからな。


 しかし、今のままだと奪うものが来る前に、歌姫が五つ星を集めきってしまうだろう。


 だから、歌姫に五つ星を集めさせない、もしくは五つ集めたとしても、また守りを築かせない、どちらかを達成すると約束するなら、喜んで協力しよう。


 その為に出てきたんだから」


「って、ことらしいっすよ。良いっすか、テナー」


 ユメに問われ、テナーは顔をうつむけて、自分を抑えるようにして「俺もソプラにもう一度歌わせるのは反対だから」と唇を噛んだ。

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