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一音目

 皆様お久しぶりです。またへんてこな設定で小説を書いていきますので、暇つぶしにでも読んで頂けたら幸いです。

 ファンタジーという事で前作『両性類だった俺は両性類にLvUPした』とはだいぶ毛色が変わってしまうかと思いますのでご注意ください。

 一年前。月明かりに照らされていた世界が、一瞬にして昼間のように明るくなった。


 まるで星が爆発したのではないかと思われるそれはいくつかの光に分かれて地上に降り注ぐ。


 それを見ていた人々は、その日を星が落ちた日と呼ぶようになった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大陸一つの小さな世界。その中にある緑に囲まれた小さな村「アパ」。


 十五歳ほどの少年テナーはその村の外れにある丘で仰向けに寝転がると大きな欠伸をした。


「“演奏者”になって一年。この村は平和すぎるよね」


「ほら、テナー。サボっていないで見回りするよ」


「あ、ルーエ。見回りって言ってもアパは平和そのものって感じだけど」


 頭の上、日の光を遮るように立ちながら声をかけてきた少女ルーエにテナーは不満そうな声を投げかけた。


 後ろで一つに結われた茶色の髪を揺らしながら首を振るとルーエはため息をつく。


「このご時世、平和が一番いいに決まっているじゃない」


「そうなんだけど、折角こうやって演奏者になれたんだから、モンスターと戦いたいんだよ」


 ルーエの影から逃げるように「よっ」と言いがら起き上がったテナーはそう言うとその手から炎を発したかと思うと太鼓の撥を出現させる。


 それと同じくして、テナーの身長の半分はありそうな和太鼓がふわふわと宙に浮かぶように現れた。


 それを見ていたルーエがやれやれともう一度ため息をつくと、スッと伸ばした右手に風が集まり篠笛の形を成す。


「そういう事は私に勝ってから言うべきだと思うけど」


「ルーエは強すぎるんだよ」


「問答無用」


 ルーエはそう言うと篠笛に唇を当てピューっと音を鳴らす。


 その音に合わせるかのように風が渦巻きほんのり緑色をした鋭い三日月のような形を作った。


 テナーは「やば」と小さく声を漏らすと、手に持つ撥で宙に浮かぶ和太鼓を叩く。ダッダッダッダ……と小気味好く。


 それに合わせてこぶし大かそれより少し大きい位の炎の球がいくつも生まれた。


 先に動いたのはルーエ。一瞬で息を吸うと、先ほどよりも鋭く短い音を出した。


 その音を合図に宙に浮かんでいた緑色の刃が風を切る音を立てながらテナーに飛んでいく。


 テナーは和太鼓が自分に追従してくるのを確認しながら、横に走るように刃をよけると反撃とばかりにダダンと和太鼓を叩いて炎の球二つルーエに飛ばした。


 高速でルーエに迫る炎の球は、しかしルーエが二度バックステップしただけで、地面にぶつかり消滅する。


 テナーはその様子を見て一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐにクルクルと撥を回してダダダダダ……と連続で革に撥を打ち付け、先ほどよりも小さな炎の球を雨のように降らせた。


 しかし、テナーの目に映ったのはいくつもの小爆発。


 大きな音と共に生まれた煙によって視界が悪くなったところから、いきなり現れた緑の刃にテナーは思わず大きく後ろに飛び退いた。


 それでも、すぐに反撃に打って出ようとテナーは撥を振り下ろしたが、見事に空を切る。


 ハッとしたテナーがふわふわと近づいてくる和太鼓に目を奪われていると、一節の旋律と共に衝撃を受けた。


 旋律と衝撃の間にテナーの目に映ったのは高速で近づいてくるルーエの姿。


 耐え切れず押し倒されたテナーの首元に篠笛が突きつけられる。


「はい、私の勝ち」


「だから……」


 満面の笑みでテナーにのしかかるルーエに悔しそうにテナーは何かを言いかけたが、諦めたようにため息をつくと「降りてくれない?」とルーエに頼む。


 ルーエは何事も無かったようにテナーから降りると、篠笛をけしパンパンとスカートを叩いた。


「テナーって運動神経は良いのに楽器がそれに追いついてないよね」


「ルーエの篠笛とは違うんだって」


「そう?」


「そうだよ。明らかに大きさ違うって」


 恨めしそうな目でルーエを見るテナーは、それでも良く分かっていた。


 その分テナーの方が魔法の威力は高いはずだと言う事に。


 敢えてそこに触れなかったので、たぶんそこをルーエに言われるだろうとテナーは思っていたがルーエから返ってきたのは別の言葉だった。


「でも、私今回私自身を移動させたのよ?」


「ルーエ自身を?」


「ちょっと見てて」


 首を傾げるテナーを前にルーエはもう一度篠笛を出現させると、先ほどテナーが聞いたメロディを奏でる。


 音に合わせて現れるのは風の刃。それも地面ギリギリ。


 ルーエがそれに飛び乗るとすべるように高速で動いた。


 十メートルほど行ったところで刃から跳び下りると、ルーエはテナーに向かって手を振る。


「ね、できたでしょ?」


 そんなルーエを見たテナーは悔しそうにそっぽを向いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 テナーとルーエが住む村「アパ」。周囲を木の柵で囲まれ、その面積の半分は畑として使われている。


 村の入口から砂利で固められた道が伸びていて、左手に家があり右手にそれぞれの畑。その向こうに川が流れていて、家の数は十にも満たない小さい村。


「おじいちゃん、ただいま」


「おお、ルーエとテナーか。村の周りはどうだった?」


「相変わらず何ともなかったよ」


「いや、ルーエに襲われ……っ痛」


 見回りを終え、帰って来たテナー達を最初に迎えたのはルーエの祖父でもある村長。


 ルーエがテナーの脇腹を抓るのを見ても穏やかな表情を崩すことはなく、安心したと言うような様子で話し始めた。


「元々この付近であまりモンスターを見る事も無かったが、歌姫様が歌う事を止めてしまって一年その数は増えつつある」


「そうは言っても村長。週に一度あるかないかですよ?」


「テナー、そんな事言わない」


「よいよい。テナーが演奏者になって一年、相変わらずこの辺りだと何も起こらず暇じゃろうて。


 それに何かあってもルーエがおるからな。ただ、怪我だけはせんようにな」


 「ほら、村の皆にも挨拶してきなさい」そう言って、村長は村へと続く道を指さす。


 その先には畑仕事をする村人達の姿が見えた。


「うん。それじゃあ、おじいちゃん。また後でね」


「村長、また明日」


 村長と別れてテナーはルーエと村唯一ともいえる道を歩きながらぼやくように、そして照れ隠しでもするかのように口を開いた。


「村の皆にって、別に家族じゃないんだから良いと思うんだけど」


「何言ってるのよ。村の皆家族みたいなものでしょ?」


「……ごめん」


「テナーが謝る事ないでしょ? 物心ついた時から両親のいなかった私よりも最近亡くしたテナーの方が辛いんだから。


 それに、私にはおじいちゃんや村の皆が居るからね」


 申し訳なさそうに謝ったテナーに対してルーエが笑ってそう返すと、テナーは真面目な顔で「ルーエが羨ましいよ」と言った。


 それに対してもルーエは笑う。


「テナーだって私の家族でしょ?」


「それは別にうれしくないかな」


 満更でもなさそうに言ったテナーの言葉にルーエは拳で返すと、二三歩前に躍り出てテナーの方を向いた。


「ほら、テナー置いてくよ」


「ルーエ、待ってよ」


 テナーがルーエを追いかけると、ルーエも逃げるように走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふあ~」


 アパの村から中央であるクレシェへ向かう街道から少し外れた草原の上、テナーが見回りをサボって寝転がっていた。


 いつもならルーエが一緒にいてすぐにテナーの行動を咎めるのだけれど、ルーエは今日は村の方の手伝いがあっていない。


 咎めてくる人間のいないテナーは、本格的に昼寝でもしようかと思いながら一年前の事を思い出していた。


 一年前の事をと言ってもテナーの記憶は殆どなく、思い出せるのは家族で何かをしようとしていた事。次の瞬間にはベッドの上で村人に囲まれて目を覚ました事。そして、眠っている間に両親が亡くなったと言う事。


 代わりに才能ある人間にしか発現させることが出来ない、魔法を生み出す“楽器”を発現させることが出来るようになっていた事。


 後から聞いた話になるが、その日が星の落ちた日と呼ばれることになった事。


 十五になるテナーにとって、家族のように接してくれる村人はとても嬉しい存在であるけれど、同時に気恥ずかしい存在でもある。


「演奏者にはなれたけど、このままじゃルーエには勝てないまま何にも出来ないよな」


 町や村を守る演奏者は、特にテナーのような年齢の男の子なら一度は憧れる存在。


 一年前、その憧れの存在になれたのは良いけれど、ルーエの存在と土地柄モンスターの脅威に晒されることが少なかったため思うような活躍が出来なかったテナーに不満が無いと言うと嘘になる。


「ルーエは平和が一番って言うけど、もうちょっとくらい何かあっても良いと思うんだけどなー」


 テナーが『グルルルルル……』と言う低いうなり声を聞いたのはそうボヤいた時。


 テナーは少しうれしそうな顔で飛び起きると、唸り声の聞こえてきた西側の森に目を向ける。


「ルーエを呼びに……は行けないかな。村にはいないはずだし。それに……」


 行けたとしてもきっとまたルーエに活躍の場面を奪われてしまう。


 テナーはよし、と気合を入れると西の森へと急いだ。




 森の入口に着いたテナーは一転して辺りを警戒しながら、その中に足を踏み入れる。


 光と影が逆転したかのように、暗い中にわずかに日の光が落ちている森の中、ガサガサと何かが走る音が一つ聞こえてきたので足を速めた。


 テナーが足音に追いついた時、灰色の犬を二回りほど大きくして、牙と前足の爪をより鋭くしたようなモンスターが今にも何かに襲い掛かろうとしている。


 モンスターが向かう先を見ると、澄んだ空のように青く長い髪、雪のように白い肌、大きい目をしたテナーと同じ年くらいの女の子がじりじりと後退していた。


 モンスターが前足にぐっと力を入れて女の子に飛びかかるよりも少し早く、テナーは彼女の前に躍り出ると、直後飛びかかって来たモンスターを手に持った撥で振り払うように横から叩き付ける。


 それも犬モドキの軌道を逸らしただけだったが、そのターゲットをテナーの方に向ける事には成功したらしく、モンスターの鋭い目がテナーを捉えていた。


「そうそう、先にこっちの相手をしてくれないとね」


 相手を挑発するようにテナーはそう言うと、相手がもう一度攻撃のモーションに入る前に和太鼓を出現させる。


 ちりちりと火花を散らす和太鼓を見ながら、モンスターは何かを感じ取ったのか焦ったようにテナーに向かって駆け始めた。


 もう少し早ければテナーに構える隙も与えない程の速さだったが、和太鼓を出現させた時点で攻撃に転じる構えが出来ていたテナーは両の撥で力いっぱい太鼓を叩く。


 現れた炎の球はルーエとの試合では見せなかったほどの、それこそ今しがたテナーが叩いた和太鼓程の大きさ。


 その炎に巻かれた犬モドキは悲鳴を上げる事も出来ず、しばらくのたうち回ると、ぱたりと動かなくなってしまった。


 モンスターが動かなくなった事を確認したテナーは一度息を吐いてから、自らが守った少女の方を向く。


「危ないところだったね」


 そう言って、少女に笑顔を向ける。少女はテナーが自分の方を向いた時、怯えたように両手を胸の前で組み後退ったが、その笑顔に後退るのを止め不思議そうな顔をした。


 後退るのは止めたが、何も言わない少女に違和感を抱かずにはいられなかったテナーだが、どこか不安そうな少女の顔を見ていると何かを言わなくてはと思い自己紹介を始める。


「俺はそこにあるアパの村で演奏者をやっているテナー。君は?」


 問われた少女は困ったように首を振ると、何かを求めるように手を伸ばしテナーの方に踏み出した。


 無音で。


「え?」


 目の前で起こった不思議にテナーが思わず素っ頓狂な声をあげた。


 しかし、とテナーは思い直す。先ほど後退った時も、そもそもテナーが此処に来るまでに追いかけていた足音は四足歩行のモンスターのものだけ。


 二歩目、少女が近づいて来た時、テナーは目の前の不思議が現実のものだと確信して、恐る恐る口を開いた。


「君、もしかして音が……?」


 頷いた少女にテナーは言葉を失う。


 かける言葉が思いつかないテナーはそれでも、このまま森の中に居るのは危ないと思い「取りあえずここは危ないから出よう」と言って少女の手を取って歩き出した。

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