孤狼1
俺は、異質なんだ。
それを自覚したのはいつだったか。
15年間ずっと、ある特性が俺を苦しめ続けてきた。
多発性異象集寄症候群。
その病名を知る医師に会えたのはつい最近だった。
いや、厳密に言うと病名とは言えないかもしれない。症候群という言葉は、医学的根拠の無い症状に対して使ったりもするらしいから。
数千万人に1人という極めて珍しいもので、症例が少なすぎる為に詳しい症状や対処法なども一切不明なんだそうだ。
その症状を簡単に説明するなら、「異質を引き寄せてしまう」というもの。
子供の頃から俺の周りでは、ありとあらゆる怪現象が発生してきた。周りの人間は最初面白がって近づいて来るけど、すぐに付き合いきれなくなる。
写真を撮れば、2回に1回は心霊写真になる。俺の家の周りにだけいつも10人くらい変質者がうろついていたり、俺のクラスだけ謎の病気が流行したり、呪いのビデオがシリーズ物で配達されてきたり。例をあげればキリが無い。
その結果、つけられたあだ名は「疫病神」。
それでも中学までは、休むことなく学校に通い続けた。一度でも休んでしまったら、そのまま不登校になってしまいそうな気がして、意地でも通い続けた。
しかし皆と同じ教室には居させてもらえず、他の部屋で独り授業を受けさせられた。教卓に備え付けられたモニターごしに先生の話を聞きながら。
あの時の絶望的な孤独は言葉では表現できそうもない。
家族でも俺をもてあましていた。会話もほとんど無く、部屋に引きこもる毎日。家の中に居ても安らげたことはない。
どこに居ても、何をしてても現実感が無い。
マジで生きた心地がしない。
高校受験を迎えるくらいの時期には、精神的な限界に来ていた。このまま闇の中を独りでさまよい続けるような真似はもう無理だ。
どこかに俺みたいな人間を受け入れてくれる場所はないのか? そんな場所があるなら世界の果てにだって行く。わらにもすがる思いで毎日のようにネット上をさまよい続けた。
そして情報の海の片隅に漂っていたこの町の噂を見つけた。
異寄町。
この世のあらゆる異質が集う町。数々のミステリースポットが点在し、日常的に超常現象が起こる場所だそうだ。
この町では一切の常識が通用せず、この町を訪れたミステリー愛好家達も3日と持たず退散していくらしい。この町の住民達もまた、他の町では生きられない異質な人間達の集まりなんだそうだ。
一種の都市伝説みたいなものだろうと思った。
だけど極限まで追い詰められていた俺にはもう選択の余地が無かった。受験はこの町の高校一本に絞った。当然、反対する人なんて誰も居ない。むしろ、影では皆喜んでいたと思う。
俺は住んでいた町から逃げ出して、なかば家出のような形でこの町へ来た。
そしてこの町へは今朝、辿り着いた。
そして感じた。
今まで訪れたどんな町とも違う空気を。
目が覚めるような気分だった。まるで今までの15年間が長い夢で、ようやく現実にたち戻って来れたような思いさえした。
もし本当に町全体が異質だというなら、俺を苦しめ続けてきたこの特性が問題にはならないかもしれない。
だって俺が引き寄せるまでもなく、周囲が異質にあふれているのだから。
現実味を帯びてきた希望に、体の震えが止まらなかった。
ここでなら居場所が見つかるかも知れない。そう実感した。
そういう経緯で、この俺、杉原 誠は異寄学園に来ている。
届いた入学案内書には学費と寮費が全額免除とあった。それなら節約すればバイトで生活していくことも出来ると思った。冷静になって考えると、あからさまに怪しい文面だったけど。
この言葉を信じて着の身着のままここへ来た。自分でも馬鹿をやったと思うけど、この町に来てこの決断が間違いでは無かったのかも、と思えてきた。
…………ような気がしないでもない。




