蟻騒動
ニベルスーグの月、フィルソルトの日。
どうやら自分は凄い勘違いをしていたらしい。
L一族主催『ダンジョン完全製作方法』によると、初心者は一極化するのが普通らしい。
例えば、モンスターの種類は一万以上いるが、モンスターにも相性があり、内輪もめだの内乱だのを起こさないようにする労力を考えれば、一つモンスターに絞った方がいいらしい。
上級者にもなればその辺は匙加減一つでどうとでもなるらしいが、まるっきり初心者の自分ではゆっくりとやってく方がいいだろう。
そしてダンジョンの作り方だ。
森や林を造りゲリラ戦をするのが一番楽だとか。他にも市街戦とか、要するに初心者はモンスターが奇襲しやすいようにダンジョンを造るのが大切らしい。
成る程、考えてみれば自分は入った瞬間にゴール。つまり他の部屋がない。そして運動場のような見開きのよい場所にモンスターを配置していた。これでは瞬殺される。
それに結局自分達は籠城側、つまり守衛側だ。守備を壊すには最低で三倍、下手をすると十倍でも破れない場合もあるくらいだ。有利な条件で創られてるのにそれを有効活用しない理由はない。
なお、壁や本拠地の前に天井などを造った方がいいらしい。まぁ、空を飛ばれて来たら瞬殺だしね。
しかし、モンスターがいない。スライムがいなくなってからは呼び出してない。そんなポンポン呼べたら苦労しないのである。仕方ないから種を取り寄せて植林する事にした。説明書によると森が出来るまで三日もかかるらしい。植えた瞬間生えてくる最新式の種子はlevel七以上のモンスターを持っているMでないといけないらしい。
でもlevel七以上を育ててる人は『アウラネ・ブルーム』とか『収縮するアポトーシス』とか普通に呼べるよね? そうすれば勝手に樹木とか生えてくるよね?
まぁ、道具が便利すぎると駄目になるかもしれない。自分みたいな奴が。それに、道具に頼りきるように造らせていたら良いM一族がいなくなってしまうだろう。
うむむ、ダンジョン造りも奥が深い。深すぎて面倒になってくる。 ニベルスーグの月、メトフェリルアーの日。
腰が痛い。植林し過ぎてやばい。ちょー痛い。
土を敷いて、耕して、種を植えて、水を蒔いて、ようやく一休み。そして昨日はそのまま寝てしまった。おかげで身体が汗臭い。
シャワーを浴びながら考えた。違う。自分が想像してたダンジョンマスターのイメージはもっとこう、モンスターに命令すれば終わりーとかそんな楽な生活をしているのがダンジョンマスターだった。
なのに自分ときたら、モンスターは言うこと聞かない、植林すらも自分で。何という差別。泣きたくなってきた。
しかしまぁ、結局全部自分のせいなので頑張るしかない。
だが、さらに心を折る出来事が発現した。
友人からの電話ではどうやら森だの林だのは『フィールドコンセプト』一覧で貰えたらしい。
自分の一日は何だったのかと枕を濡らした。
ニベルスーグの月、ガンルドースレの日。
蟻だ。
蟻系モンスターならいける。
『モンスター図鑑』によると蟻系モンスターは餌さえやれば勝手に増殖するらしい。
しかも、殻が堅いので生半可な剣では傷一つつかない。
これだ。
急いで蟻系のモンスターの死骸を用意。そして召喚。
ロチットアント。下位モンスターだが、物量作戦だ。質は量に勝る!
自分の腰ぐらいデカいので少しキモイが、大切なのは慣れと愛情である。ほら、角とかちょーきゅーとだよ、たぶん。
二匹ほど呼びだして餌をあげる。
本によるとこれくらいの蟻の時速が六十キロメルトルだった気がする。こんなのが六十キロメルトルで山ほど突っ込んできたら……level五くらいは倒せるだろう。
ニベルスーグの月、フリーの日。
フリーという人は偉大だ。休む日を作ってくれたのだから。
とにかく、今日は襲撃者に怯える必要はないという事だ。
上機嫌なまま外に出ると、なんと増えていた。
ロチットアントが五匹になっていたのである。すげえ、流石蟻、流石蟻速い。小さいのが三匹いやがる。
そんなわけでさらに上機嫌になった自分は餌をばらまいてやった。
その後はキャーキャー一緒に遊んだ。
ニベルスーグの月、ヴェルバロースの日。
かなり日付が飛んでしまったが気にしない。
蟻達は凄い勢いで増えてった。次の日には十匹になっており、さらに次の日には二十六匹になっていた。
そして、ついに二百越え。
これは勝つる!
とか思ってたら、羽が生えた奴が産まれた。
なんぞこれ? とか不思議に思い、調べてみたらとんでもない事が判明した。
『注意! 蟻系モンスターは増えるのが速く、異常な程で繁殖する。しかし知能が低く、扱いには注意が必要だ! 気をつけるべきは女王が産まれる事! 女王最優先で動くのでそれまでのマスターを裏切る事が多々あるぞ! 雑兵として扱うにはいいが、主戦力として使う場合は危ないので、女王の卵を見つけたらすぐに始末しよう!』
…………。
泣きながら都合よく成長しきった森を燃やした。
蟻の呼吸器は単純なので、軽い煙ですらこいつらには致死量なのだ。蟻系の弱点である。
自分はそのまま外に出て友人宅に寄生した。
『いや、別にいるのはいいよ。だけど働いてね』
などとツンデレな台詞を言っていた。無視してだらけていたら三日後にはマジで放り出された。
仕方なく家に帰った。
焼け野原に転がる黒い物体。酷い景色である。
片付けるのも面倒なので今日はこのままふて寝しよう。