涙の意味
眼の前に広がるのは深紅に染まる大地。
感覚は既になく、時間さえも分からない。
影が濃くなるにつれ、黒く染まる。
上を向くと無限に広がる空はなく、光の檻に囚われた有限の闇ばかり。星光は一筋もなく、やがてゆっくりと滲んでゆく視界。
「このまま死んでもいい、彼女の許に逝けるのなら」
それは、変わることのない本心か。
それとも、単なる現実放棄か。
思い出すは、幸せだった過去。
心の隅に見え隠れするあの笑顔の涙。
その意味を知ろうにも、一人にしないと約束した彼女はもういない。
掌を空にして、腕を伸ばす。
「何故、なぜだ。どうして―…」
腕は、ただ空を掻くばかり。
指に触れる小さな温もり。
顔を横に向けると、そこには彼女が残していった小さな命。
「一人にしないで」
一粒の雨が頬を濡らし、心を揺り動かす。
「もう嫌だ。あんな思いはもう二度と。」
先程まで全てを諦めていたのが、情けない
明確な意思で、小さな少女の手を握り返す。
二度と離してなるものか。
私が守らなくて誰がこの子を守るんだ。
しかし、車に轢かれた身体が動かない。
そして徐々に幕は閉じられる。
何もない殺風景な白い部屋。
私の腕を握り締め、静かに寝る少女。
痛む体を起こし、少女の髪を撫でる。
涙が止まらない。
あの日から、後ろばかりを見ていた。
捨て去ろうとした、喜びと哀しみ。
二人ではなく三人で歩くはずだった道。
全てを思い出しそうで、少女を見るのも嫌な日もあった。
さあ、涙を拭こう。
彼女の分まで二人で生きようと、新たな決意を胸に詰め込んで歩き出そう。
寝ていた少女の目がゆっくりと開く。
まだ眠たいのか、丸めた手で目を擦っている。
「おはよう」
もう一度髪を撫でて私は少女に笑いかけた。