story1 ドSな神様と告白され(かけ)る俺。
もう一つの小説の方が毎週更新なので、更新はかなり遅くなってしまう事が予想されます。(←天気予報?)
よくあるテンプレ異世界主人公チート物。だけど、神と戦う話。
下駄箱に入っていた一通の手紙。
あまりにベタ過ぎてラブレターなんてものを忘れていた俺は、その手紙を読んでやっと、それがラブレターなるものだと理解した。
『放課後、体育館裏に来て頂けませんか』
手紙には、綺麗な可愛らしい女の子の文字で、そう書かれていた。
放課後。
体育館裏。
なんて素晴らしい言葉達だろう。
そして。
『待ってます。上須永莉乃』
手紙の一番下、最後の行に書かれていた名前に、俺は目を見張った。
上須永莉乃。
学校一の美少女で、顔良し性格良し、文武両道。まるで絵に描いたような優等生だ。
勿論、彼女はモテる。それは男子からも、何故か女子からも。
しかし、彼女が誰かと付き合っているとかそういう噂はついぞ聞かなくて、難攻不落の姫様、などと男子の間では密かに呼ばれていたりするのだが。
その難攻不落の姫様が、俺にラブレターを出してきた。いや、まだラブレターとは決まった訳じゃないけど、十中八九そうだろう。俺は彼女からの手紙を見てラブレターじゃないと言える程、恋愛に疎くはない。
因みに、俺は彼女が好きな訳ではない。そりゃ、可愛いとは思っていたけど、俺にとって彼女は高嶺の花っていう存在だったし、好きになるだけ無駄だと考えていた。
そして、多分俺は、高嶺の花とかそういうのを抜きにしても彼女を好きになる事はなかった、と思う。多分。
多分って二回言ったな、俺。
ともかく、俺は彼女に告白されたとして、断る事に決めていた。自分でも驚く程、それを決めた時の俺は冷静で落ち着いていて、断る、という事に対して躊躇いも迷いも無かった。断っても後悔はしないだろうと、頭の片隅で考えていた。
断る理由。
それは、ただ単に、目立つのが嫌だったからだ。上須永莉乃の彼氏ともなれば、恐らく卒業までずっと注目されてしまうだろう。彼女と別れない限り――いや、別れたら別れたでまた違う感じで注目されるのかもしれない。
彼女を敬愛する生徒達を敵に回すのも嫌だったし、面倒だった。
だから別に、好きな子がいるとかいう訳ではない。断じて違う。
目立ちたくない。
そんな情けない理由でフラれる彼女に申し訳無いが、本当に俺は目立つのが嫌だった。
――とはいえ、嬉しいという気持ちはあった。
初めて告白された相手が学校一の美少女。ファンクラブまで存在するというアイドル的存在の少女。
上須永莉乃。
これで嬉しくなかったら、ソイツはもう男ではない。絶対。
だから、ちょっとドキドキしながら、放課後、手紙に指定された通りに体育館裏に来た。
そこでは既に、上須永莉乃が顔を俯かせて俺を待っていた。
彼女の耳が、赤い。ストレートロングの黒髪から覗く耳が真っ赤に染まっていた。
そんな彼女の様子を見て、これは本当に告白みたいだ、と思う。
「……あ、えっと、ごめん。待った?」
下を向いた顔を上げる気配のない彼女に、俺は声を掛けた。
声が震える――なんて事はなく、しっかりとした響きを持っていた。その事に少し安堵する。
その代わりでは無いだろうが、ピク、と震えたのは上須の肩だった。
「……ま、待ってないです、全然」
小さな、囁くような声量で彼女は言った。
「あ、あの……来てくれて、ありがとう、ございます」
「ううん、俺は別に、何時も暇だし、大丈夫」
俺は真っ赤な顔を上げた上須にかぶりを振ってみせた。少しだけ、彼女の表情が綻ぶ。
「あ、あの!」
「ん、何?」
「……あ、その。わ、私、あの……えっと」
「……」
俺は無言で彼女の次の言葉を待つ。
豊かな膨らみのある胸の前に手を当てる彼女は、やっと決心したように。
「あのっ! 私、ずっと前から、神薙くんの事が――」
神薙或瀬。
高校二年生。十六歳。
春。学校一の美少女、上須永莉乃に告白される。
俺は、彼女を振るつもりだった。
しかし、それは叶わなかった。具体的に言うと、彼女の彼氏になる事も振る事も出来なかった。
「――ここ、どこ?」
神薙或瀬。
高校二年生。十六歳。
春。神様の悪戯により、俺は告白受け中に異世界に飛ばされる。
俺は知る。
この世界――いや、俺の元いた世界も異世界も引っ括めて、次元や世界の壁を越えて存在する神様は、酷い奴なのだと。
サディスト、なのだと。
神様は、ドSだった。どうしようもなく、ドSだった。
それは、俺がこれから知っていく事だが、告白受け中に異世界に飛ばされた時点で神様とやらが最低な奴だとは認識していた。
「こんの、サド神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
――これは、主人公がドSな神様と戦う話。
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