覚醒
ちょっと長めです☆
「司狼?」
それは優しい声色だった。
どこまでも優しく包んでくれる声。
「司狼か?」
それは力強い声色だった。
どこまでも大きくて偉大な声。
「お兄ちゃん?」
それは純粋な声色だった。
どこまでも人を心配する優しい声。
なんで……。
なんでなんだよ?
何で……今更になって俺にこんなに絡んで来るんだよ?
せっかく、せっかく決別できたと思ったのに。
せっかく新しい目標もできて、忘れることが出来たのに……。
何で……また……。
「母さん?父さん?初音?」
自分でも情けない声が出たと思う。
声も唇はその声を妨害するかのように震える。
認めたくない。
俺はその場にしゃがみ込んで、目を堅く瞑り耳を塞いだ。
そうだ。
違うんだ、アルセはいっていたじゃないか?
これは相手の呪術なのだと。
これは俺を貶める罠なのだ。
そうだ、そうなんだ。
だったら何も恐れる必要はない。
俺は声が聞こえた方角を向き……
「ゴボォ……」
──吐いた。
ビシャァと俺の胃の中のものが地面に叩きつけられる。
そこには確かに”ヒト”がいた。
だけど、俺は一気に許容量を持って行かれて、我慢できずに……吐いた。
だって、だってさぁ……。
母さんの体が……。
父さんの体が……。
初音の体が……。
なんで……殺された時の姿なんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!
母さんの病気なんじゃないかってくらいの白い肌は、真っ赤な血で彩られ、服はずたずた。
腕に足に体に深い切り傷がありそこから溢れ出る泉の様にゴボゴボッと噴出させていた。
父さんは何時も着ていたお気に入りのカッターシャツを真っ赤に染めていた。
それが血を吸えなくなったのか落ちた雫が、父さんの足元に黒く濁った水溜りを作っていく。
初音が一番酷かった。
何故か全裸だったのだ。
動けなくするためか足の腱が切られているようで、少々立ちづらいようにフラフラと辛うじて立っていた。
だけど初音の秘部から漏れ出してくる白い濁った液体。
それが幼い俺だったらわけがわからなかったが、今の俺は違う。
今の俺ならわかる。
あの犯人は初音をレ○プしやがっていたのだ。
まだ幼かった少女を、自分の欲望に任せて……。
それは、親戚の人たちがコソコソと話しているのを盗み聞きした。
俺はその記憶を、何もかもに一切合切を蓋をした。
目を背けたいのに、目の前の”ヒト”たちから目を離せない……。
「司狼……こっちにおいで?」
「う、うん……」
父さんが俺に向けて手招きをする。
重力に引かれた物の様に抗えず、俺はフラフラと家族に向かった。
「父さ……ッ!!」
父さんは俺が近づくとものすごい速さで近づいて俺の肩をつかんだ。
「な、にするの?」
クソッ!
なんでこんなに力が強い!?
死体特有の腐乱臭が俺の鼻を突く。
ググッと父さんの腕を引き剥がそうとするけれど、剥がれない。
「司狼?私はこう思うんだ?」
「何を?」
「何故、お前だけが生きている?」
!?
心臓が弾けんばかりに弾んだ。
体中に酸素を届けようと、勢いよく活動し始める。
……まるで心を鷲づかみにされたようだった。
「そうよ?私たちは死んでしまったのに、何で司狼だけ生きてるのかしら?」
「だよね、私もおかしいと思ってた。お兄ちゃんだけ仲間外れは良くないよね」
なんだ?
何を言ってるんだ、こいつらは?
「司狼?みんないってるんだ。ここは一緒に死なないか?」
ちがう、俺の家族はこんなこと絶対に言わない。
言わないはずだ。
だから”コレ”は俺の家族じゃない。
断じて……違う!!!
許さねぇ……。
俺の家族をダシにして俺を陥れようとするあの魔物も。
こいつらも。
守れなかった俺自身も。
全部……全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!!!!!!
ぶっ壊してやる!
『ならば……力を貸してやろうか?』
俺の頭の中で、昨夜の声が反響する。
お前がなんだとか今はもうどうでもいい。
この声を認め始めると体がどんどんと軽くなる。
「邪魔だ」
父さんだったものの腕を掴み、無理矢理拘束を解く。
さっきまで外すことも出来なかった父さんだったものの拘束をいとも簡単に取り外す。
その時に、父さんだったものの腕がバキッと嫌な音を立てたがそんなことは関係ない。
俺にはまったく関係ない。
全然、まったく。
『好い姿だ。実に見事。我好みの器ではないか』
どうでもいい。
とにかく、この状況をぶっ壊せる位のことは出来るんだろうな?
『笑止』
頭の声は俺を嘲笑った。
『こんなものでは俺を満足させられぬわ』
そうか、なら是非もない。
お前の力……俺に寄越せ。
『いいだろう、ならば紡げ。我の呪術を……我の理を、怒りと悲しみに繋がる我の理を』
司狼はグラムに手を添える。
「我望むはただ破壊のみ」
ブゥンとまるでパソコンの起動音の様に鈍い音がグラムから発せられる。
「創造其のものを消滅させし忌むべき力」
ジジジ──。
とグラムが赤い火花を散らす。
「ただただ悲しみのみを糧とし、怒りに身を任せ全てを破壊す」
赤い閃光は火花を散しながら、グラムを這う。
「人と魔物の間に生まれし異能の魂」
そしてそれはある形を司る。
「我の後ろに創られるは荒れ果てた荒野のみ!」
線だった閃光は繋がり、形をなす。
「さぁ紡ごう、悲しき世界を終わらせるための悲しき力を!」
狼を模した、赤い紋章。
紋章は意思を持ったように、吼える。
俺の意識がだんだんと遠のいていった。
目の前に霞がかかる。
その直前に見えるのは、恐怖に歪む顔をした家族だったもの。
俺は嘲笑った。
自分が自分じゃなくなる感覚が襲ってくる。
だけど不思議と怖くない。
怖くないんだ。
そこまで考えて俺は意識を完全に手放した。
~アルセ~
「……風よ風よ風よ!
私は風と契約せし、風の巫女!
私の呼びかけに応え、指示を受けよ。
巻き起こせ!
『風の嵐』!」
私はかなりの魔力を注ぎ込みこの町を包み込んでいる霧を薙ぎ払った。
霧は霧散し、空気に還る。
「司郎は!?」
私が術を発動させる最後の辺りで霧の中から、高密度の魔力と殺意を感じた。
私が感じた魔力を司郎に会わせるわけにはいかない。
司郎なら会った時点で瞬殺だ。
こんな時には自分の力不足が嫌になる。
司郎には威張っていったが、魔力ばかりが増えて技術はからっきしなのだ。
だから簡単な魔法しか使えない。
まぁその簡単な魔法も魔力が有り余るせいで、凶器と化しているのだが。
おそらく高位の魔法使いには、技術のせいで敗北を味わうだろう。
いや、今はそんなこと考えてる暇じゃない!
「司郎~!?」
私は霧が晴れて行く中で声を張り上げて、必死に司郎を探す。
「アルセ様!」
「グラシオさん!」
「霧の除去お疲れ様でした、こちらは村の住人は今の内に全員非難させておきましたので、思い切りやっていただいて結構です」
私は内心ガッツポーズした。
私は細かい作業は嫌いなのだ。
だから何も考えない力技が大好き。
「司郎様は?」
「それが……」
私は大げさに肩を落とした。
グラシオさんは気を使って、頭をポンポンと優しく叩いてくれた。
「それにしても……嫌な予感しかしませんね。ミミックは何処へ行ったんでしょうか?」
「そういえば……」
司郎も見当たらないが、ミミックも見当たらない。
まさか!
「司郎を連れて逃げた!?」
「いえ、それはないはずですが……う~む」
「どうなっているんでしょうか?」
「そうです──ムッ!アルセさま!お下がり下さい!!」
グラシオさんはそう言って私を背後に隠した。
「どうしたんで……」
私はグラシオさんの後ろから顔をだし、目の前の光景に息を呑んだ。
広場の中央……そこにポッカリと黒い球体が出現していた。
「空間魔法?バカな……」
その球体はだんだんと大きくなった。
そして一定の大きさになったのか、成長は止まった。
大体、大人二人くらいは余裕で入り込める位の大きさだ。
だけど問題は大きさじゃない。
グラシオさんが絶句している通り、空間魔法自体が異常なのだ。
そんなものが出来るのは神とか魔王とか。
最高位とか異端なものにしか扱えない。
高位魔法。
それが私たちの目の前で展開されている。
その場に縛り付けられたように空気が重く私たちに圧し掛かった。
ブンッ
!?
球体に動きがあった。
少し球体がぶれたのだ。
そして──
ドサッ
球体から”ナニ”かが落ちた。
それは辛うじて生物の形をとっていた。
とまぁこの魔物に形はないので、形事態は問題ではないのだが……。
それでも異常だと言っておこうかな?
とにかくグチャグチャ。
ただの肉塊と言った方が早いかもしれない。
「ホラ……ミ、ロ……ヤツガ、メザメテシマッタ」
ミミックはガクッと気を失ってしまった。
あのミミックの皮膚をあんなに?
あの球体を作ったのは誰なの?
様々な疑問が飛び交う。
だけどその答えも吹っ飛ぶ。
ブンッ
また球体がぶれた。
そして”それ”は現れた。
私は一瞬、お父さんとの楽しい日々を思い出した。
もしかして走馬燈!?
初体験だった。
そう思わせてしまうような存在。
ここから今すぐ逃げ出したい存在。
そいつの姿が全て出ると球体はまた小さくなっていき、、パンッと黒い粉を散らして消えた。
そいつが私たちを見た……。
ブワッと全身の産毛が逆立った。
グラシオさんも思わず、後ろに後ずさりしていた。
「な、なんであん、なものが……」
「わかりません、ですがこれが夢なら覚めて欲しいもの、ですね……」
苦笑交じりにため息をついた。
全身を覆う、まるで夜が生きているかの様な錯覚を起こす、漆黒の毛。
こちらを射殺す様な鋭い狼特有の金色の瞳。
そして、腰に輝く円盤の形をした武器。
まさか……。
嫌、認めたくわない。
あれが……
「ランクSの中でも最凶最悪……絶滅したと言われた半人半魔。『呪わし異端の狼”ライカン・スロープ”』」
それが司郎だなんて……。
『アォォォォオオオオオオオオン!』
悲しき狼の遠吠えだけが、その場に響いた。
何時も恒例のあいさつになりつつありますが……
はじめましての方も、何時も見てくださっている方々も!
この小説を読んでくださり!
ありがとうございます!
おかげ様でpvも一万を超えました
本当にありがたいです
さて本題に入りましょうか?
今回の流れとしては
司郎のトラウマをほじくり返す
司郎がぶち切れる
ライカン・スロープ化
ですかねぇ?
間単に言うと……
ライカン・スロープですが
自分の中ではぶっちゃけ最強です(笑
誰にも負けないくらい
というか、これからどうしよう?
って悩む位にw
まぁそんなこんなですが、この章も後少し……
次は違う書き方でやってみようかな?
後、詠唱がちょっとダサいね(汗
思いつき次第また修正しようと思います
~~~
誤字脱字や感想を随時うけつけております
それではノシ
次の更新はまた遅れそうです(泣