初めての人助け
~○○ 広場~
司狼達から少し離れた場所。
村の中心に位置し、そこは少し開けた場所になっている。
そこで、一人の女性とその身長を遥かに超える身長の大男がいた。
大男は女性が逃げられないように、腕を掴んで空中にぶら下げている。
「誰かっ!助けてっ!!」
「ハハハっ!誰も助けてくれるわけ無いだろ?こんな屑の溜まり場でっ」
「この町の悪口言うなっ」
「だまれっ!」
パチンッ
大男は捕まえている女性を叩く。
叩かれた頬は徐々に赤みを増していく。
皆が広場と呼び、普段であるならば、談話したり通行人で賑わっているのだが、今は死刑執行時の様な重苦しい雰囲気が広場を包んでいた。
広場には、女性と大男一人しかいない。
周りの家屋には人がいるのだが、恐れをなして止めに出て行くことは出来ないでいた。
そして女性はキッと大男を睨み付ける。
「黙るものかっ!この町も人も誰も馬鹿にさせないっ!キサマの様なクズに馬鹿にされてたまるもんですか!」
「んだと!?テメェ……それ以上言って見ろ。ただじゃすまさねぇぞ……」
大男は醜悪に満ちた顔で、頬を三日月型に吊り上げる。
そして視線を彼女の体のいたる所に向ける。
そして頭から足まで見終わると、
「そうだなぁ……お前高く売れそうだなぁ……性格は調教するとして……その色気満点の脚。ソソルぜぇ……」
「っ!?」
女性に何とも言えない悪寒が走る。
生理的に受け付けないものが目の前にいる。
ーー気持ち悪いーー
だがそう思っても言えない。
先ほどから気の強そうな発言をしているものの、足は生まれたての子鹿のようにガクガクと震えている。
震えが伝わらないように虚勢を張る。
大男は怯えていようと、馬鹿にされていようと余裕を崩さない。
なぜなら種族からして桁が違うのだ。
大男の種族は獣族。
しかもその中でももっとも強いとされるミノタウルスだ。
ミノタウルスだという証の捩れた角に。
丸太の様に太い足と腕は岩を容易に砕き、鍛え抜かれた胸筋は刃物さえも跳ね返す。
そんな化け物に、一般男性に勝てるかも分からない女性が勝てるわけが無い。
「離してっ、離しなさい!!」
足を必死に揺らして抵抗する。
だがしっかりと掴まれており、抜け出すことが出来ない。
「ほらほら~ぁ、逃げだそうなんて考えるなよ?俺が本気になればこんな村直ぐに潰せるんだからなぁ……」
やや興奮気味に言う。
実際この言葉は冗談ではない。
魔力や力を持たない人間が獣人などに立ち向かえるはずも無く多種族の盗賊などに狙われ全滅した村も少なくはない。
女性もその事が分かっているのだろう。
抵抗を止めブランと空中に垂れる。
だが視線は、ミノタウロスを殺さんとばかりに鋭い目を向ける。
「そうだなぁ……売り払う前に、味見でもしておくかぁ」
そういうと女性のワンピースを脱がしにかかる。
「っ!!!????」
凄まじいほどの嫌悪感。
好きでもない男に裸を見られるという屈辱。
何もできない無力感。
女性は現実から目をそらすようにギュッと目を閉じた。
だが、彼女の服が脱がされることは無かった。
なぜなら、
「そいやっさ!」
「ぬぉ!?」
誰かも分からない、この場にそぐわない陽気な声が聞こえたと思ったら、ミノタウロスの短い悲鳴。
その瞬間、突然に浮遊感に襲われる。
「きゃっ!?」
彼女の体は地面に落ちることは無い。
彼女が目を開けるとそこには、自分をお姫様抱っこする黒髪の少年と、吹っ飛ばされたのか少し先でお尻を突き出して寝転んでいるミノタウロスだった。
~司狼 in広場~
あの時聞こえた声は、気のせいではなかった。
アルセに先に行くと伝え少し走ると、腕を掴まれて宙ぶらりんにされている女性と、服を脱がしに掛かっている角を生やした大男がいた。
迷う必要なんかない!
突撃ぃぃぃいいい!!
俺は更に速度を上げ、
「そいやっさ!」
「ぬぉ!?」
大男に足から突っ込む。
いわゆるドロップキック。
ドロップキックは上手く腰にめり込み大男の体が、くの字に曲がる。
そして、勢いよく吹っ飛んで行った。
吹っ飛んだ大男は土ぼこりを上げ、ズサーーーと地面とキスをしたが今は見ている場合ではない。
大男の腕を離れ宙に投げ出された彼女を包み込むように抱き上げる。
「大丈夫?」
まずは怪我が無いか確かめなくちゃね。
だけど、彼女はふるふると頭を振るだけ。
なんとか喋ろうとしてもパクパクと声にならない声を出す。
触れている手からわずかな震えが伝わってくる。
俺が今出来ることは……
「もう大丈夫だよ?だから安心して、ね?」
ただ安心できるような言葉を喋ることだけ。
「司狼っ!」
「おっ……アルセ良いタイミングだ。この人を頼む」
そう言ってアルセに彼女を引き渡す。
「わかった!まかせてっ」
グッと親指を突き出してきた。
だから俺も、
「任せたっ」
親指を突き出して応えてやった。
「ググっ……!一体何が……」
大男は蹴った場所を押さえながら、よろよろと立ち上がった。
「起きた?」
「キサマか!?俺様を突き飛ばしたのは!?」
「うん、そうだよ?」
「キサマは、誰を突き飛ばしたと思ってるんだぁぁぁあああ!!」
大男は怒りに顔を真っ赤にさせる。
唾がここまで飛んでくる。
ちょっ!?
汚い!、汚い!
「気をつけて、司狼。あれはミノタウロス。力が自慢の種族よ」
「オーケー。わかった」
「暢気に話をしている場合かぁあああ!?」
ミノタウロスはその豪腕を、俺めがけて叩きつけてくる。
当然のこと俺はよける。
だがその豪腕をミノタウロスは止めることなく、地面を叩きつける。
メキッという音と共に地面に穴が開く。
ミノタウロスが拳をどけるとそこには拳大の小さなクレーターが出来ていた。
「やるね」
「フンっ当たり前だ。俺様はミノタウロスの中でも最も力が強かった男だからな。今なら泣いて土下座したら許してやらんことも無いぞ?」
「冗談っ」
せせら笑うように、ミノタウロスを見る。
ふむ。
力に自信があるようだな。
どうするか……。
いくら、力の強い種族だとしてもおそらく俺が本気で殴ればただの肉片に成り下がるだろう。
だが、俺はそんなことはしたくない。
命を無駄に刈り取ったりはしない。
なら、俺がとる道は考える中で一つかな。
「ねぇ、おじさん?」
「なんだ!」
「泣いて謝るなら今のうちだよ?」
「ふざけるなっ!」
ミノタウロスは姿勢を低くし、こちらに突進をしようとする。
だがその前に……
「止まれっ!!」
俺は大声を発した。
これが指す意図は、
「っ!?」
やつの一瞬の停止と、こちらに視線を向けさせること。
そして俺は、足を上げ地面に向けて踵を落とす!
ドゴォォオオオん!!
瞬間、地面が爆ぜる。
やつの様に地面にめり込むのではなく、地面の方が爆ぜる。
そして、そこにはやつと比較にならないクレーターと、顔面を真っ青にするミノタウロスの姿があった。
「なっ……はっ……なっ……」
上手く言葉が紡げない様だ。
「大丈夫?」
手を貸そうと近づいていく。
「クッ……来るなぁぁぁ!?」
目にも留まらぬ速さで、立ち上がり巨漢に似合わない速度で逃げていく。
「おや、少しやりすぎた?」
「やりすぎっ」
「イタッ」
いつの間にか後ろにいたアルセが、ジャンプして俺の頭を叩いた。
「どうすんの!?町に穴が開いてるじゃない!!」
「いや、結構手加減したんだけどなぁ……」
「あれで!?」
俺が作ったクレーターを指差しながら驚くアルセ。
「あのぅ?」
さらに文句を言おうとしたのだろう。
アルセは行き場を無くした指をあっちこっちしながら、声を発した主を見る。
「もう大丈夫?」
これは俺だ。
「あぁ、その……感謝するよ」
彼女はぺこっと頭を下げた。
ふぃ~
長いですねぇ……
飽きてしまった方申し訳ありません
初の戦闘?の場面でした
戦闘と言っていいんですかねぇ(笑)
まぁ、そんなこんなで司狼君ムキムキです
屈強な人にも負けません
テストも無事に終わり、今度から自由に投稿できるでしょう
では誤字脱字や感想などがあればよろしくお願いします^^