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ドキドキとためいきの帰り道(翔平のつぶやき)

 沙南が百面相してる。


 ニカッて笑ったかと思うと、あたりをキョロキョロ見回しだした。そのあとガクッと肩を落としてため息をつく。そしたらフイに空を見上げて遠い目をしだした。


 ほんと、コイツ、見ていてあきないヤツだな。


 でも、ほっとくと沙南の百面相を見ているだけで家に着きそうだったので、翔平の方から声をかけた。


 せっかく久々にふたりで帰るんだから、もっと沙南としゃべりたい。沙南の声を聞きたい。


 だけど、不意に声をかけられた沙南は、驚いて飛び上がってしまった。


「ひゃっ!なななななななんでもっ、ないよ?キ、キョ、キョドッてなんかいないし。うん。」


 ぷっ


 沙南は、キョドッてないって言ったけど、いや、その行動は十分キョドってますって。


 だけど、キョドっている沙南もかわいく見えるから不思議だ。


 翔平が声をかけたら沙南は百面相をやめた。


 かわりに、ちょっと苦しそうな、つらそうな表情をしだした。


 沙南、どうしたんだ?何か悩んでいるのか?って問いただしたくなった。


 もし、悩んでいるなら、俺に相談しろよと言いそうになった。


 無意識に沙南の髪を触りそうになって、はっと我に返り、伸ばしかけた手をあわてて下げた。


 俺、何しようとしてるんだ?


 沙南の悩みを聞いてやるのは、彼氏の役目だろ?俺じゃない。


 いや・・・待て!


 それが、俺以外の誰かになるのか?


 そんなの嫌だと思った瞬間、翔平は、はっとした。


 えっ、嫌・・・なのか?


 俺は・・・俺は・・・


 翔平の心が混乱し始めた。


 翔平は、最近の自分の感情を持て余して困惑した。


 沙南のことになると、なぜか胸がモヤモヤして、自分で自分の気持ちがわからなくなる。


 この気持ちは・・・いったい、なんだ?


 答えが出そうで出ない自問自答に、翔平は苛立ちを覚えてそれ以上考えないようにした。


 自分で整理できていない気持ちに振りまわされるのはゴメンだ。


 今は、テニスのことだけに集中していたい。


 それに、俺は今日、コイツに伝えなければいけないことがある。


 これから伝えようとすることを考えてまた不快なほどモヤモヤし始めたのを、翔平は無理やり心の底に押し込めた。


「サナギ、来週の全部活合同の激励会の時、ちょっと時間あるか?」


「えっ、うん、セレモニーが終わってバーベキューになったら、ちょっと時間取れるよ?今回、剣道部はセレモニーの係からはずれたら。」


 翔平が、都合が悪いって断ってほしいと思っていると、沙南は、あっさり肯定した。


 翔平の心に言いようのない不安が広がる。


 また乱れようとする心に舌打ちしながら翔平はため息をついた。


「翔平?」


 沙南が、翔平を見ながら話しかけてきた。


 くせッ毛を耳にかけるしぐさ、昔と変わらないな。


 細い指が形のいい耳元でしなやかに動く。


 何度も見たはずの光景なのに、どくんと、鼓動がはねあがる。


「そ、そうか・・・時間取れるんだ・・・」


 沙南に対する答えの出ない気持ちと親友の恋の橋渡しをしている事への無意識の不満が、翔平の心の中で戦っていた。


「翔平?人のこと言えないんじゃない?翔平の方がキョドってるんだけど?」


 沙南がニヤニヤしながら俺を見てる。


 こいつ!人の気も知らないで!


 沙南から揶揄されてムカついた翔平は、葛藤をやめて一気に開き直ってしまった。


「お前じゃないんだから、キョドってなんかないし!それより、ウチも今回はセレモニー担当じゃないんだ。だからさ、バーベキューの途中で抜けて、テニス部の部室に来てくれないか?」


 ちょっと語気の荒い翔平に、沙南のからかい心はしぼんでしまった。


「えっ、う、うん、いいけど・・・」


 沙南がひるんでしまって、それきり黙ってしまったのを見て、翔平は少し心が痛かった。


 でも、翔平は素直になれずにますます冷たい口調になった。


「じゃぁ、頼んだぞ。」


 それだけ言うと、だまったまま歩みをすすめた。


 沙南は、まだ何か言いたそうだったけど、翔平が視線をそらしたら黙ってしまった。


 不意に沙南の肩が翔平の腕に触れた。


 ほんのちょっとだけ触れただけなのに、触れたところから沙南のぬくもりを感じた。


 あたたかい、心地いい気持ちが心を満たす。


 ほんのちょっとしたことなのに、気持ちが高ぶる。


 ふたりで黙って歩いた。


 月に照らされた二人のシルエットが重なる。


 翔平は、ふたりの影だけでもくっつけていたくて、触れた沙南の肩をずっと感じていたくて、何気に沙南に近づいた。


 沙南も嫌がる様子はない。


 今だけは、二人の時間だ。


 だれにもじゃまされたくない。


 翔平は、心の奥底で気づいていた自分の気持ちを素直にわかろうとしていなかった。


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