ドキドキとためいきの帰り道
手紙を渡した後、久しぶりにふたりで一緒に帰る道々、沙南はうれしさを隠せなかった。
あんまりうれしすぎて、感情がダダ漏れになっているのにしばらく気がつかなかった。
きっと私、笑ってる。
いやいや、待って!
私、変ににやけていない?
いつものようにヘン顔的な笑いになってやしない?
あぁぁ!!鏡で自分の顔、映してみたいのに。
カバンから鏡を取り出すのも変に思われるし。帰り道にお店の窓とか顔映せるの、ないかなあ・・・
「サナギ、なにキョドってんの?」
となりで百面相をはじめた沙南に翔平が声をかけた。
「ひゃっ!なななななななんでもっ、ないよ?キ、キョ、キョドッてなんかいないし。うん。」
翔平の声にびっくりして、飛び上がってしまった。ついでに声までうらがえる。
これじゃ、不審人物だと沙南は心の中で頭を抱えた。
あせって何か話そうとするけど、なんにもことばが浮かばない。
それでも何か話題は・・・と、考えれば考えるほど会話にならない。
ああ、もう、こんな時、何話せばいいんだっけ?
今までにも翔平と一緒に帰ったことあるし、遊びに行ったこともある。いつも自然に話せてたはず。なのに今はなんにも浮かばない。
いつもは・・・私たち、どんな会話してた・・・?
あぁぁぁぁぁ~!!!!
思い出そうとすればするほど思い出せない。
いったい、私はどうしちゃったの?これじゃ、これからも一緒に帰ろうなんて言えない。
せっかく、せっかくのチャンスなのに!!
沙南は、自分が情けなくって、きゅっと唇をかんだ。
ふたりのシルエットは、仲よく並んで歩いている。
街灯の明かりに照らされて、ふたりの影は、時々ピタッと寄り添う。
影は、こんなに仲よさそうにみえる。
沙南は、離れそうになる影を意識して寄り添わせるようにして歩いた。
影だけでも一緒にいたい。