翔平のおせっかい
本編は、終了しています。ここからは、番外編です。
事件後の軟禁状態が解けて、久しぶりに登校した日の放課後、沙南は翔平とふたりでバスを待っていた。これから“スイートドロップ”事件の事情聴取のため、翔平といっしょに警察に行く途中なのだ。
沙南の手は相変わらず翔平に握られていた。もう恥ずかしいからやめてという沙南の意見は即座に却下され、翔平は指をしっかりと絡めた。
下校途中の女生徒の冷たい視線を一身に浴びながら、沙南は半ばあきらめ顔でため息をついた。
こいつは、私が肩身の狭い思いをするってこと、考えないのかな。自分の凄まじい人気の自覚がないのか、あっても気にしないのかわからないけど、私まで自分と同じ神経でいられると思わないでほしい。
はあっ
今日1日で、どんだけ身の細る思いをしたか。
でも、こいつにそれは言えない。
言ったら、言ったやつ(子?)のところに行って、締め上げかねない。いやいやいや、それよりも休み時間や放課後、ずっと張り付かれるかもしれないことの方が怖い。今の翔平なら十分やりかねない。そんなことになったら、ますます学校でいずらくなる。冗談じゃない。
はあっ
「沙南、さっきからため息ばっかついて、どうしたんだ?何か嫌な事でもあったのか?」
あんたのその甘々な態度が嫌なんだってば と、心の中で悪態はついても表情には出さず沙南はにこっと笑った。
ああ、笑顔が張り付いて取れなくなったらどうしよう・・・・
「ううん、なんでもない。そういえば翔平、私があずけたカバンは?」
「は?どのカバン?」
「ほら、テニス部での事件の朝、裏門で私が預けたカバン。」
「ああ、あのカバン。渡したよ。」
えっ、ホントに羽瑠に渡したの?
いつ?
あの日は翔平、羽瑠と会ってなんかいないでしょ。ずっと、私といっしょだったんだから。それに、あの後も翔平が羽瑠といっしょにいるとこなんか、見たことないし。
いっしょ・・・
ぼんっと、頭に、あの日、翔平の部屋でふたりでいたことが浮かんだ。
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「沙南、なに赤くなってんの?」
翔平が沙南の顔を覗きこんだ。
沙南は、ぶんぶんと頭を横にふって、思いだしたことを吹き飛ばそうとした。
いけない、いけないっ。ヘンなこと思いだしちゃった。
「なっ、なんでもないっ。それより、いつ羽瑠に渡したの?」
「なにを?」
なにをって、カバンの話をしてたんだからカバンに決まってんでしょうが。
「私のカバン。」
「ああ、あれ!羽瑠に渡してなんかいないよ。」
はい?
「だって、さっき、渡したって・・・・」
「渡したのは一平に。大事なものだから、羽瑠に渡しといてって、今日、帰る前に。」
へっ????
なんで一平に渡すの?
「一平にって、なんで?」
翔平はにやっと笑った。
「俺たち、羽瑠たちには借りがあるだろ。優衣から羽瑠が一平のこと好きだって聞いていたから、借りを返そうと思って。」
翔平・・・なんて大胆なことを。
「でっでも、一平、よく受け取ったね。」
「ちょっとヘンな顔はしていたけど、あっさり受け取ったよ。」
翔平は、しれっとした顔でそう言った。
たしかに、一平には悪いと思った。
だが、一平の気持ちが沙南にずっとあるのは困る。
俺は、沙南をだれかに渡す気は全くない。沙南が誰かを見つめるのも許さない。自分の中にこんなに強い独占欲があると知ったのは、正直、驚いたが、これはまごうことなく、俺の本心だ。自分の心の中の醜い嫉妬も含めて、それをごまかそうとは思わない。
だから、一平には、早く沙南を忘れて、他の誰かを好きになってもらいたいんだ。それが羽瑠ならいいなと思った。
羽瑠は沙南の親友でいい子だって知っている。一平は、俺が一番信頼できる親友だ。だから、羽瑠にチャンスがあればと思ったし、一平が沙南以外で好きになる相手として羽瑠ならと思った。
俺は、俺なりにいろいろ悩んだ末、一平にカバンを渡したんだ。
沙南は、翔平の黒そうな横顔を見て眉をひそめた。
翔平、あの事件からぜったい性格変わった。
変に大胆になって、怖いもの知らずっていうか・・・・・手段を選ばなくなったって言うか・・・・
だけど・・・あのカバン、余計なことになってないかな?
羽瑠・・・
沙南は、羽瑠のことを思って少し心配になった。
少し動き始めた羽瑠の恋、あたたかく見守ってください。