どうしちゃったの?
第6章は、翔平が暴走気味になります。R指定なしなので、こちらも心して翔平の暴走を止めようとするのですが、なかなかです・・・とりあえず、この話まではセーブできているとは思うのですが。
警察署から出てみると、もう昼過ぎになっていた。今朝、薄暗い中、翔平と一緒に学校に行ったのがずっと昔のことみたいだと沙南は思った。
ふたりで肩を並べて5分くらい歩いていると、病院が見えてきた。翔平は相変わらず沙南の手に自分の手を絡めて放さない。
人間慣れるものかもと沙南は嘆息した。真昼間からこうしているのは、やっぱり恥ずかしいし、できれば、止めて欲しい。でも、心臓の鼓動は今朝よりはずっと穏やかになっていた。
私、だんだん翔平に慣らされていくのかな・・・・・
それもいいかもと沙南が考えていた時、病院から美里が駆けて来た。
沙南は、美里の姿を見て、ぱっと翔平の手を離した。翔平は、沙南が自分の手を振りほどいたのに眉をひそめると、沙南に何か言おうとした。が、それは美里によって妨害された。
「翔平っ、大丈夫なの?歩いたりしてっ。」
美里は翔平のことがとても心配だったんだと思い、沙南は胸が熱くなった。
美里の目は泣き腫らしたのがすぐ分かるように真っ赤で髪も乱れていた。
「大丈夫だよ、母さん。俺は平気。兄貴が念のため検査しろって言うからここに来たんだ。」
美里は、傷だらけの翔平を見て、これまで堪えていた気持ちを抑えきれずに、ほろっと涙目になった。沙南には美里の気持ちが手に取るようにわかった。
今の翔平見て、本人から平気って言われても信じられないだろうな。唇は切れているし、頭にも腕にも包帯巻いているし、手も足もあっちこっちアザとすり傷だらけだし。シャツの下の背中やわき腹はもっとひどい事になっていると思う。
「もうっ、昨日から心配のしどおしよ!あんたが犯罪者になったかと思うと、気が変になりそうだった。単身赴任中のお父さんが、ショックで仕事が手につかないって言っているのを聞いていると涙が出てくるし、食事はのどを通らないし、眠れないしでっ。今日だって私の知らないうちにいなくなっていると思ったら、史輝から、あんたがケガしているから保険証もって病院に行けって電話もらうし。いったい、どうしてこうなったのっ。」
うんうん、おばさんの気持ち、よっく、よっくわかる。私も同じだもん。ほんっと、訳わかんなくって、ヒステリーのひとつも起こしたくなるよね。
沙南が翔平の横で美里に同調するように何度も大きく頷くのを見て、翔平は苦笑いをした。
「心配をかけてごめん。でも、もう終わったんだ。母さん、息子を信じろよ。俺が犯罪なんか犯すわけ、ないだろ?」
うんうんと、美里は何度も頷いて翔平と並んで病院に入った。沙南は、ふたりを微笑ましいと思いながら、後をついて行こうとした。
が、沙南が何歩か進むと、突然立ち止まった翔平の背中にその前進を遮られた。翔平はゆっくり沙南の方を振り向くと、翔平の背中に鼻をぶつけて涙目になっている沙南の左手を掴むと、自分の指をからめた。
いやいやいやいやいやっ
これはないでしょ、これはっ。翔平ってば、おばさんが目の前にいるのに、何をするのっ!
沙南は、美里の前では翔平の甘々モードはないだろうと思っていた。それを易々と覆す翔平にパニックになっていた。
「しょっ、翔平っ、てってってっ手っ」
沙南が両足を踏ん張って翔平の指を引きはがそうとすると、
「どうしたの、沙南?俺は今朝、慣れろって言ったよね。その気持ちは揺るがないから。」
「いやいやいやっ、こっ、こんな真昼間から、恥ずかしいしっ、おばさん、見てるしっ。」
なおも抵抗する沙南に翔平は、はあっとため息をつくと、嫌がる沙南を自分に引き寄せた。
「恋人と手を繋ぐのに時間も親も関係ない。ほんとはぴったりと肩を組みながら歩きたいのを俺がどんだけ我慢していると思っているんだ。母さんは沙南と俺が手を繋いでいるを見ても何とも思わないよ。そんな固い親じゃないし。な、母さん?」
いきなりふられて美里はこくこくと首を縦に振った。
「もっ、もちろんよっ。沙南ちゃんなら大歓迎。なんなら、今日から一緒に暮らしても。」
顔を引きつらせながらとんでもない事を言い出した美里に同意するように、翔平が大きく首を縦に振った。
お~いっ、現実に戻ってこい、ふたりともっ。こんな真昼間の公道で恥ずかしい話を平気でしているんじゃないっ。ここは病院の前だぞ。どんだけ人は往来していると思っているだ。みんな見ているし。
沙南は心の中で突っ込んでいたが、現実ではもう、翔平には逆らわないでおこうと決めた。
ここで押し問答をして周囲の注目を浴びるくらいなら、ええ、ええ、私の手くらい翔平に譲ります。もう、絡めようが舐めようが、好きにして下さい。
沙南が大人しくなったのに気を良くした翔平は、もう一度しっかりと沙南の手に自分の指を絡めると、嬉々として病院に向かった。
ふたりの傍らで、一部始終を固まったまま見ていた美里は、息子の変わりように驚愕していた。
どうしよう、よっぽど頭を強くぶつけたのかしら。今まで全く女の子に興味を示さなかったのに、あんなに沙南ちゃんにべったりだなんて。やっぱり史輝の言うとおり、MRIでしっかり検査させなきゃ。
沙南と翔平の後ろからついて行くように後を追いながら、美里はそう考えた。
遅くなりましたが、お礼をさせてください。
はじめて小説を書いて投稿して、それだけで満足だったのです。野いちごではこの話は、ちょっと私的な事情があって途中でストップしています。だから、きちんと書きすすめられとても嬉しかったです。それなのに、「お気に入り」に登録してくださったり、評価をしてくださる人がいらして、びっくりしました。と同時に、私のこの拙い話を読んでくださる人がいるのだと実感しました。ほんとにほんとに感謝です。この話はもう少しで終わる予定です。最後まで飽きずにお付き合いくださると、嬉しいです。