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翔平の変化、沙南の戸惑い(沙南のつぶやき)

この話から、沙南は翔平の甘々モードに振り回されます。

 沙南は、警察のろう下のベンチに座らされていた。未だに、自分に何が起きたのか全然わからない。あまりにも驚き過ぎて、魂が幽体離脱してしまったように呆けていた。目もうつろで人の話し声が遠くにしか聞こえない。今の状況はどこか現実的ではないように思えた。


 もう一度、今朝おこった事を思い返してみた。


 いきなり凶悪そうな(私にはそう見えたもん)男がやって来て、スイート何とかっていう物を寄越せって怒鳴って、翔平を殴ったり蹴ったりしていて・・・ほんとに翔平が死んじゃうって思って怖かった。


 その後、パトカーのサイレンが聞こえたと思ったら、わらわらと警察が大勢押しかけて来て、男を捕まえてパトカーに乗せて・・・って、経験してごらん?


 誰だって、幽体離脱するって。


 でも、悲しい女の性だよね。他の人の声はあんま聞こえなくても、翔平の声だけはしっかり聞こえるんだから。


 翔平に『もう、大丈夫だよ。』と言われてやさしく抱きしめられた感触だけは、現実だったって自覚できた。


 でも、それ以外の事は・・・

 

 昨日から今日まで、翔平は、翔平の言うところの複雑な事情があって大変だったみたい。それが、ドラッグに関係する事件だったって聞いて、ドラマにでも紛れ込んだみたいに現実味がなくって・・・


 こうして翔平と一緒にパトカーに乗って警察に来て、事情聴取ってのをされても、やっぱりまだ、ほんとの事だって思えない。


 きっと私の魂は、まだどこかで、ふわふわ彷徨っているんだ。


 沙南は虚ろな目でろう下の奥の方に目をやった。そこに翔平の姿を見つけて、魂の抜けた瞳に焦点が戻ってくる。


 翔平は、上半身がTシャツで下が汚れたジャージ姿だった。口元や頬の絆創膏、それに腕や手に巻かれた白い包帯といくつものアザ。


 翔平はひどいケガをしているみたいだから、彼女なら真っ先にそのケガを心配するはずなのに、翔平が堂々と警察と渡り合う姿を見て、凛々しくて格好いいと見惚れてしまう自分が恥ずかしくなる。


 心配よりも胸の高鳴りの方が大きいなんて。


 沙南は何度か強く頭を横に振ると、邪念を振り払おうとした。


 翔平は、今、史輝と話していた。側には、浩二もいる。3人で真剣な顔して何やら話し込んでいた。


「・・・・・・・・・・・・・病院、行けよ。」


「わかっているって。じゃ、兄貴、浩二さん、また後で。」


 翔平は、史輝たちに手を振ると、沙南の方へやって来た。


 とたんに、幽体離脱した沙南の魂は、ちゃっかり自分の体に戻ってきた。完全に瞳の焦点が合う。こっちに来る翔平を見て、胸の鼓動が10本ダッシュした後みたいに早くなった。


 沙南は、無意識に開きかけた膝をくっつけて、女の子らしく?座り直した。


 はぁ~っ、私って、たいがい乙女だったんだ。


 沙南が軽く自己分析していると、


「沙南、大丈夫か?ごめんな、ちゃんと守れなくて。」


と、翔平が私の傍に座って優しく聞いてきた。


 確かに、沙南の体にもいくつかアザがある。でもそれは、不可抗力ってやつで、翔平が沙南を守り切れなかったわけではない。


 翔平が私より体が大きいからっていっても、あの時に完全に私を庇うのは無理だった。それでも私がかすり傷程度だったのは翔平のおかげなのに・・・大丈夫かって聞きたいのは、私の方だよ。自分の方が傷だらけのくせに。


「う、うん。私は、大丈夫。翔平の方こそ、大丈夫?いっぱい、殴られたでしょ?」


「あぁ、背中蹴られたり頭を殴られたりしたけど、思ったより平気。でも、兄貴が念のために病院で検査しろっていうから、これから病院に行く。沙南、いっしょに来て?」


 翔平が沙南の耳元に顔を寄せると、囁くように言った。


 ぞくっ


 な、なに、その甘えたような言い方はっ?翔平、キャラ違うんですけどっ。


 沙南は、耳元にかかる翔平の息に頬を染め、思わず翔平の顔を見た。


 翔平は、今まで見たことないくらい優しい目で沙南を見つめ返した。沙南は、赤くなっていく顔を見られるのが恥ずかしくて、思わず目を逸らした。


 しっ、心臓が口から飛び出る~っ。


 なんでっ?翔平に何があったのっ?もしかして、頭を強く打って性格変わってしまったとかっ?


 「沙南?一緒に来てくれるだろ?」


 翔平が、ぐっと私に顔を近づけてもう一度聞き返してきた。翔平は沙南を逃がさないというように、沙南の手をしっかりと手を握りしめていた。


「もっ、もちろんっ。翔平のケガ、私をかばったからだもん。い、いっしょに行くよっ。」


 かっ、顔がっ!翔平の顔が、近っ。


 沙南は、翔平から少し身を反らしてそう答えた。ほんとは少し離れたかったのだが、翔平がそれを許さなかった。


「ありがとう。」


 翔平は、にこっと笑うと、沙南を引っ張って立ち上がらせた。


「兄貴が、近くの○×総合病院に連絡入れとくって行っていたから、そこまで歩いていこう。すぐだし。」


 そう言って翔平は、沙南の手を握ったまま歩き出した。


 今朝もそうだったけど、翔平は、私と歩くときは手を繋ぐもんだって思っているみたい。私の心臓が勝手に100mダッシュしてるのなんかお構いなしに、平気で手を繋いでる。さっきのことといい、やっぱり、翔平、昨日までの翔平じゃ、ない。ものすっごおく、甘々モードになってる。


 こんなこと何回も繰り返していくうちに、私、翔平と手を繋いだり、翔平に甘~く迫られたりしても平気になるのかなぁ?


 いやいやいや!


 むりむりぃ~っ!!


 絶対、慣れたりしないと思う。だって、私、翔平に手を握られると胸がジンジンして苦しい。この切ない気持ち、痺れるような体の疼き、翔平によって呼び起される諸々の感情を自分で制御できないもの。


 沙南の全身の神経が、繋がっている左手に集中している。きっと、この気持ちは、ずっと変わらない。


沙南は、ため息をひとつつくと、自分の手を握って離さない翔平をちらっと見上げた。


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