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受け取った手紙

 待ち合わせの裏門でボ~っとしながら沙南を待っていると、何人もの女子が翔平のほうをチラ見しながら帰っていく。


 この瞬間が、翔平はキライだった。


 男兄弟でそだった翔平は、女の子が苦手でうまく話せない。


 自分とは明らかに思考回路が違う女の子と会話するのは、宇宙人と話すより難しい気がする。


 だいたい、話題がかみ合わない。


 一平が、何分も何十分も尽きることなく話題を換えて女のこと話すのを見るたび、名人芸だなって感心するけど、羨ましいと思ったことは、ない。


 全然親しくもない、顔も覚えていない女の子と話すのは、疲れるだけだ。


 早く沙南が来てほしいと、翔平は思った。


 しかし、部活が終わって待ち合わせの裏門に向かって坂を下っていた時、翔平は、猛ダッシュで坂を駆け上がっていく沙南を見かけた。


 すれ違う時に、「沙南」と呼びかけたが、沙南は気づかず一気に坂を上っていった。


 沙南があんなに急いでいる時は、たいてい顧問から呼び出された時だ。もし、顧問に呼び出されたんだとしたら、しばらく待たされることになる。


「しょうがいないか。」


 ため息をついて、翔平は目を閉じた。こうしていれば、煩わしい視線を感じなくて済む。


 翔平が裏門で待って10分後、沙南が来た。


 沙南の気配は、不思議と目を閉じていてもわかる。


 翔平は、ゆっくりと目を開けると、沙南の方に視線を向けた。


「ごめん。待った?」


 両手を合わせて謝りのポーズをしている沙南は、いつもより可愛く見えた。


 翔平の鼓動が跳ね上がった。


「いいって。オマエ、浦先に呼び出しくらってたろ?短い足をフル回転してダッシュで坂道登んの見てたから。」


 自分の鼓動をごまかしたくて、翔平は、茶化した口調でそう言った。


「あっ、えっと・・・ウン。じつはそうなんだ。」


 翔平が茶化すと、いつもなら噛みついてくるのに、今日の沙南は、しどろもどろになりながら返事をするだけだった。


 ことばに詰まりながら、手を握ったり開いたりして下を向く沙南は、いつもよりも可愛く見えた。


 どくん


 さっきよりも鼓動が跳ね上がる。


 こんなふうに動悸がするなんて、俺、どうかしちまったのかな?


 翔平は、高まる心臓の音を無理やり抑え込みながらそう思った。


「で、話って?」


 翔平は、自分の気持ちとは裏腹に、そっけない口調で沙南に話しかけた。


 いきなりの質問に、沙南は驚いた。


 い、いきなり?いつもなら、部活のこととか、勉強のこととか、他愛のない話をしてから本題に入るのに、今日の翔平は、いつもと違う。


 まだ、言うべきことばを用意していなかった沙南は、答えに詰まってしまった。


 沙南が困ってる。


 目がくるくる忙しそうにあっち見たり、こっち見たりするのは、困った時の沙南の癖だ。


 沙南は、自分の癖に気づいているんだろうかと、翔平は思った。


「あ、あのさ、手紙、受け取ってほしいンだよね。」


 意を決したように、沙南の口が動いた。


 翔平は、沙南のセリフにガックリきた。きっと、また、誰かの手紙を預かってきたのだと思うと、腹が立った。


 ムカつく気持ちが、翔平に意地悪なセリフを吐かせた。


 ぜったい、ありえないはずのこと。


「これ、お前からかよ?」


 沙南は、困ったような、泣き出しそうな顔をして、違うと言った。


 わかっていたことだ。


 なのに、腹の虫がおさまらない。


 自分の気持ちがそのまんま声になった。


「またかよ?うぜぇ!!」


 翔平の不機嫌な声に、沙南の動きがますます挙動不審になっていく。


 しかし、沙南は、不安気な表情を見せながらも、今回は引き下がらなかった。


 そんっなに、俺と誰かをくっつけたいのかよ?


 翔平のムカつく気持ちがそのまま声になった。


「今回だけはって、お前、これで何回目?お前は俺へのラブレター配達人なわけ?」


 翔平の冷たく言い放ったことばに、沙南はビクッと肩をふるわせた。


 手紙を差し出す沙南の指がかすかに震えている。


「おねがいっ!!もう、絶対こんなことしないから!今回だけっ。今回だけは、受け取って!!!」


 くそっ!


 沙南のヤツ、俺に顔も見せないで頼みやがる。コイツの震える肩と手を見ると俺が断れなくなるって、コイツ、本当は知ってるんじゃないか?


 翔平は、心の中で舌打ちした。


「わかったよっ。お前がそんなに言うんなら、幼なじみのよしみで、今回だけは受け取ってやるよ。」


 はあ、結局、泣きそうな沙南の顔にほだされて・・・受け取るって言ってしまった。


 翔平は、顔をゆがめながらも、手紙を受け取った。


「ホント?ありがとうっ!感謝、サンキュー!」

 

 沙南がパッと顔を上げて笑った。

 

 左のほっぺに・・・

 

 笑った時にみえる沙南の片えくぼに、翔平はドキッとした。

 

 かわいい。


 反則だろ、その笑顔。コイツにこんな顔されたら、もう断れない。


 翔平は、沙南から手紙を受け取ってカバンにしまった。




 手紙のことは、正直どうでもよかった。


 久しぶりの沙南との帰り道。だれにもジャマされたくなかった。


 家までのほんの20分たらずの二人だけの時間。


 俺には何よりも大切な時間なんだってちゃんとわかっていたのに、あの時は、自分の気持ち、ホントわかってなかったんだよな。


 それに・・・あの時、すぐに手紙を開けていれば、事は簡単だったんだ。


 後で、あんなにややこしい事にならずにすんだんだ。


 沙南とのことだって。


 でも、あの時の俺にはそんなことまったく予測できなかった。


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